テスラ不振とパナソニックの苦戦、北米1軸から日米2軸への戦略転換に求められるサプライチェーン構築
パナソニックエナジーは2024年6月、車載電池事業の今後の方向性を見直すことを明らかにした。これまで「北米1軸」であった事業方針転換に踏み切り、新たに「日米2軸」とすることを発表。
北米の現地生産と日本国内からの輸出による北米頼みからの脱却を狙い、国内工場の生産分を日本の自動車メーカーに振り向ける「日米2軸」の戦略。
今回の「日米2軸」への方針転換は北米市場でのEV需要の変化、すなわちテスラの不振も大きい。減益に喘ぐ同社はこれからどのような戦略を展開するのか。
テスラ不振による北米市場への懸念、パナソニックの失速
パナソニックグループは、車載電池の主要顧客であるテスラへの供給以外にも、2023年にはルシッドの高級EV向けや、ヘキサゴンプルスの商用車への供給を発表している。2024年3月には、スバルおよびマツダと車載電池の供給に関する提携を発表した。
同社はEV電池工場を主に日本とアメリカで運営しており、年間の生産能力は合計で約50ギガワット時。2017年からテスラと共同運営するネバダ工場は約39ギガワット時、大阪府内の住之江工場と貝塚工場は合計で約10ギガワット時の生産性を誇る。2023年では国内2工場で生産した電池の99%超がテスラを中心とする北米向けニーズで占められていたほど、北米依存は強い。
しかしパナソニックエナジーの国内2工場の生産量は昨年から大きく落ち込んでいるようだ。2023年7〜9月には工場の稼働を一部停止しており、2023年4〜6月に比べ6割減産。在庫の適正化にも動いている。2023年10月以降も同程度の水準で推移していた。同社は国内工場における具体的な生産量を公表していないものの、本来の生産能力を加味すると、年4ギガワット時以下に落ち込んでいると考えられる。
この想定外の需要減の理由は国内でつくる電池「18650」を搭載しているとされるテスラの「モデルS」などの販売不振だ。モデルSは2022年8月に成立した米インフレ抑制法(IRA)の優遇対象から外れている車種でもある。
このIRAには1台当たり最大7,500ドル(約120万円)の税額控除があるが、モデルSのような高級車種の購入者は税額控除を考慮しない客層だと予想されていた。しかし蓋を開けてみると需要は激減。そのあおりでパナソニックエナジーの国内工場が減産に至ったと見られる。
さらに、5〜6月に打ち出した2030年に国内工場の8割超を国内出荷にすること、さらに国内生産量を2〜3倍とする計画を考慮すると、テスラを中心とする北米向けへの将来見通しを厳しく捉えていることも読み取れる。
仮に国内工場の生産量を現状の3倍の30ギガワット時に引き上げ、8割超を国内向けに振り分けると、北米向けは単純計算で6ギガワット時以下、2倍の20ギガワット時であれば4ギガワット時以下にとどまる。
調査会社のテクノ・システム・リサーチによると、パナHDの2023年の車載電池の世界シェアは出荷容量ベースで6%。2019年の21%からは15ポイントも落としている。電池の増産は続けてきたが、投資攻勢に出た中韓勢にシェアを奪われている格好だ。