中国EV過剰生産によるダンピング輸出にアメリカ、欧州、カナダが追加関税措置、技術発展の妨げになる可能性も
バッテリー技術の進歩やギガキャストによる製造工程・コストの削減など、近年注目されているEVの低価格化。
2024年5月、アメリカは中国EVメーカーが政府からの巨額な補助金によりEVを過剰生産、不当に安価な製品を流通させていると指摘。それが自国の産業・雇用を脅かしているとして、中国製EVに対する輸入関税を25%から100%に引き上げる異例の判断を下し注目を集めている。ところが、中国製EVの輸入割合は3%程度に留まることから影響力は限定的とされ、減速するアメリカのEVシフトをさらに進める可能性があるとされている。
そして、アメリカに続いて欧州も同年の6月、同様の理由から中国製のEVに現状の10%に最大で38.1%追加し、最大48.1%の関税を課す方針を発表。カナダに関しても中国製EVの輸入に対して規制を発表する方針を明らかにした。
中国政府のメーカー援助によるEV過剰生産をめぐる各国の追加輸入関税の動向や、それによる効力・リスクはどのようなものが想定されるのだろうか。本記事では時系列を追って概観していく。
目次
アメリカ政府、中国製EVや関連製品・材料に対する輸入関税引き上げを発表するも、その影響力は限定的か
2024年5月14日、ジョー・バイデン大統領率いるアメリカ政府は、同年8月に中国製EVに対する輸入関税率を現在の25%からその4倍の100%に引き上げることを発表した。異例とも言えるこのあまりに大幅な関税率引き上げには中国政府も反発の声を上げており、巷では貿易戦争、殴り合いなどと揶揄されているほどだ。
さらに、アメリカの関税引き上げはEVのみに留まらない。EVに用いられるリチウムイオンバッテリー、鉄鋼・アルミニウムへの関税に関しても現在の7.5%から25%に、太陽光発電設備は25%から50%に2024年度中の変更を予定している。半導体に関しては2025年までに25%から50%に、黒鉛・永久磁石に関しては2026年度までに現在の0%から25%に引き上げる予定だ。
アメリカ政府は、中国は過剰生産によって不当に安価な製品を流通させていると指摘しており、自国の産業を守る狙いがあるようだ。この関税引き上げは不公正貿易とみなす相手国に対して、一方的な制裁を認める「米通商法301条」に基づく措置とされている。
現状のアメリカ市場において、EVバッテリーや黒鉛・永久磁石に関しては中国からの輸入割合が50%以上と非常に高いものの、中国製EVや半導体に関してはどちらの輸入割合も3%程度にとどまり、大きな割合を占めているわけではない。それもあり、輸入関税引き上げによる影響は限定的とされ、減速するアメリカのEVシフトをさらに進める可能性があるとされている。
詰まる所、此度の輸入関税引き上げは中国のバッテリー分野における優位性や、EVの低価格を先導している事実がアメリカ内に与える影響を危惧するが故に下した判断だと言える。
その背景には、2024年11月があるとも言われている。周知の事実だが、共和党の前大統領ドナルド・トランプ氏はアメリカファーストを掲げる保守派だ。自国の産業・雇用を守らんとするその強固な姿勢によって、一部の層から熱烈な支持を獲得している。
先の会見ではこれまでアメリカのEVシフトを積極的に推し進めてきた現大統領のバイデン氏も、中国による低価格製品が他国の企業を廃業に追い込んできたと批判。「われわれの労働者が不公正な貿易で妨げられないようにする」との発言をしている。ただし、あくまでも衝突ではなく公正な競争を望むと付け加えている。今回発表した関税の引き上げ措置により、BYDをはじめとした中国勢の低価格EVから自国を守り、支持者を獲得したいという政治的な狙いがあるのだろう。