農機の自動運転、レベル3の障壁は「通信技術」|ヤンマーに訊くAD/ADASの技術①
自動運転とは、GPSなどの位置情報を用いて、トラクターやコンバインなどの農業機械を自動で正確に走行させる技術だ。
自動運転技術を用いれば、常に理想的な直進が可能。作業者は作業機の調整や監視に専念でき、作業の精度があがる。作業者の習熟度によらず、均一な作業ができるのもメリットといえる。
しかし、完全無人の自律走行が可能な「レベル3」のロボット農機は未だ実現していない。
今回は、農業機械メーカーのヤンマーアグリで、自動運転技術の開発を行っている開発統括部先行開発部部長 日髙 茂實氏と開発統括部先行開発部先行技術グループ 岩村 圭将氏に開発の経緯や今後の課題について詳しく話を聞いた。
自動運転の正確な位置情報が資源循環を生む
農業機械大手のヤンマーアグリは、日本の農業が直面する課題解決に向けて、自動運転技術の研究開発に力を注いでいる。日本では、農家の高齢化と人手不足が深刻化しており、将来的にも若年就農者の確保は容易ではない。自動運転技術を導入することで、限られた人的資源でも効率的に農作業を行える。
加えて、自動運転は作業の効率化にも大きく寄与する。熟練オペレーターでも長時間のトラクターでの作業は蓄積疲労の原因となり、作業ミスにつながりかねない。自動運転技術を活用することで、負担を大幅に軽減できるのだ。
また、従来のトラクターでは作業状態の確認のために後方を振り返り、操作のために前を向くことを繰り返さなくてはならず、その結果畝(うね)が曲がってしまうことがあった。畝の幅がまちまちになれば、結果的に収量が畝本数の減少分だけ減ってしまうことになる。それに対し、自動運転技術を用いれば、操縦は任せたまま均一な畝が作られるため、ほ場に対して最大効率で作業が可能になり、結果的に収穫量が増加することになる。
ヤンマーアグリは将来的に、自動運転技術を搭載した農業機械の正確な位置情報を利用しつつ、各農地の収量や収支、作業履歴などのデータと合わせて、農作物の収支をDXでデータ管理することを想定している。これは、農水省が掲げる持続可能な食料システムの構築に向けた「みどりの食料システム戦略」のデータ駆動型農業の実現に寄与する。データを活用して肥料や農薬の使用量を最適化し、環境負荷を低減。同時に、需要に応じた計画的な生産を行うことで、食品ロスの削減にもつなげられる。データに基づく機械の動きと作物の成長、資源循環、それらはすべて融合していくと考えているという。