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ニッサンFJ20E-Tインタークーラーターボ :「今、最もナウいエンジンだが、欧州勢と比べると未だ極め足りない」【兼坂弘の毒舌評論 復刻版 #2】

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ニッサンFJ20E-Tインタークーラーターボ :「今、最もナウいエンジンだが、欧州勢と比べると未だ極め足りない」【兼坂弘の毒舌評論 復刻版 #2】
1981年(昭和56年)に登場した6代目スカイライン(R30型)とともに誕生したFJ20型エンジン。1983年にはターボチャージャーを装着して最高出力が190psまで高められた。最終的には空冷インタークーラーを追加して最高出力は205PSに達し、このユニットを搭載した“2000ターボRS”は当時「史上最強のスカイライン」と呼ばれた。

1983年からモーターファン誌で始まった「兼坂弘の毒舌評論」。いすゞ自動車の技術者を経てエンジンコンサルタントとして活躍した兼坂氏が、当時のエンジンを「愛情を込めてめった斬り」したことで人気を博した。30年以上前に、現在のエンジン技術を予言していたかのような内容も少なくない。また、今となっては逆に新鮮な、当時のカルチャーを文章から感じることもできる。テクノロジーの紹介だけでなく読み物としても面白いこの連載を、TOPPERでは抜粋してシリーズでお届けする。今回は、モーターファン1984年6月号からニッサンFJ20エンジンに関する記事を転載する。

当時の時代背景や筆者、編集者の意図を尊重し、文章はすべてオリジナルのまま掲載。キャプションと、写真および小見出しの一部はTOPPER編集部が追加した。写真提供:日産自動車

<TOPPER編集部追記:FJ20エンジンとR30型スカイライン>

1981年(昭和56年)8月に6代目のスカイライン「R30型」が登場。10月には、レースで戦える性能をめざして新開発された4バルブDOHC、「FJ20E」エンジンを搭載した「2000RS」が追加された。最高出力150ps/6000rpm・最大トルク18.5kgm/4800rpmで、当時のWRC(世界ラリー選手権)やツーリングカー・シリーズのレギュレーションに合わせた排気量アップなどチューニングを意識した設計になっていた。

1983年2月にはターボチャージャーを装着した「FJ20E-T」を載せた「2000ターボRS」がデビュー。最高出力190 ps/6400 rpm・最大トルク23.0 kgm/4800 rpmと当時の国産2000ccエンジンではトップクラスのパフォーマンスを実現した。さらに同年8月にはマイナーチェンジを実施。RS系はフロントグリルレスの造形を採用した、いわゆる「鉄仮面」へとフェイスリフトされた。

当時の日産は矢継ぎ早にパワートレインを追加。1984年の2月には、FJ20E-Tにインタークーラーが組み合わされ、205ps/6400rpm・25.0kgm/4400rpmと200馬力を超えた。ターボRSは「史上最強のスカイライン」を名乗ったが、FJ20が4気筒エンジンだったために“R”の称号は与えられず、ファン待望の“GT-R”復活は1989年(平成元年)の8代目R32型まで待つこととなった。

独特のフロントエンドで「鉄仮面」と呼ばれた後期型のスカイライン2000ターボRS。

ジャギュア(ジャガーの英語。1000万円)はビンボーニンのベントレー(ロールスロイスのスポーツカー。4000万円)とイギリス人はいい、ヘンな日本人が「スカGはジャリのジャギュア、略してジャリギュア」というはホメ過ぎか?DOHC・4弁+ターボチャージ・クールだけがナウいエンジンであって、ニッサンFJ20E-Tがホッテストにナウいと生ぶ声をあげた。

公道をドライブできるレースブレッドとかラリーブレッドほど、カーキチをコーフンさせるものはない。待ちに待ったこのエンジンを、血走った眼差しでみつめてみよう。

勝てるか?欧州の「DOHC 4弁」エンジンたち

釣りやゴルフは道具と勝敗は無関係であるが、交差点グランプリでは性能の良いクルマの方が必ず勝つ。負ければ同乗の女のコが、「カエル」というから絶対に負けてはならないのダ。ましてレースにはゼニと名誉とギャルがかかっている。何が何でも勝たねばならぬ。

フランスにコーヒーミルとか自転車(いま日本に輸入されている。60万円)とかを作っており、ついでに自動車も作っているプジョーというオジサンがいて、勝つために直列4シリンダー、DOHC、4弁、7.6ℓで130psも出すL76エンジンを作り、フィアットの13ℓを相手とせず、ヨーロッパでは無敗で、アメリカに遠征し、インディ500マイルでもブッチギリに勝った、と中村良夫さんの本(レーシングエンジンの過去・現在・未来)に書いてある。驚いたことに71年も前のことなのダ。大正元年に「おしん」が大根メシを食っていた頃、フランスではDOHC4弁とは…。

そして、71年後の今、ヨーロッパでは日本同様、DOHC4弁の花ざかり。ジャギュアは4.2ℓ 205psのXKエンジンの代りに図1の分解図で示すような、DOHC4弁、3.6ℓ、圧縮比9.6で225ps/5300rpmのAJ6エンジンをXJSクーペに載せることになった。小さなエンジンで大出力を出す、このMM思想のエンジンはシリンダー・ヘッドもブロックもアルミ・チル・キャストで、XKエンジンに比し22%軽くなった。

アルミの使用で大幅に軽量化した「ジャギュア」のAJ6エンジン。

アウディも例の5気筒2.1ℓエンジンをDOHC4弁、ターボ+チャージ・クールして、圧縮比を8に下げ、ブーストを2.2kg/cmにまで高めて300psをひねり出したエンジンをラリー・クアトロ用として開発している。これもジャギュア同様シリンダー・ブロックをアルミ製にしたので、旧エンジンより25kg軽くできている。

それの4気筒版のVWシロッコ/GTI用1.8ℓ、16弁エンジンは圧縮比10、無過給で130ps/6300rpmをだす。燃焼室はアウディ、VWとも同じで、他のペントルーフ型とは異なり、図2に示すようなウエッジ型で、排気弁は垂直に取り付けられている。排気弁はいかにもドイツ車らしく、マジメにソジウム冷却(図3)している。しないとアウトバーン連続200km/hで走れないカモ。

フォルクスワーゲン製1.8リッター16バルブエンジンのシリンダーヘッド。この時代には、既にソジウム(= ナトリウム)封入バルブによる冷却が行われていた。

5万km、247.9km/h!という偉大なる世界記録を樹立したメルセデス・ベンツ190E 2.3-16のコスワース・ヘッド・エンジン(図4)は、圧縮比10.5で185ps/6000rpmの出力である。残念ながらベンツは会社の方針としてガソリン・エンジンは過給しないことになっているので、ターボ仕様はない。当然のことながらメルセデス190E 2.3-16もソジウム・クールド・エキゾースト・バルブを採用している。

メルセデスのコンパクトクラス「190E」のホットバージョンである "2.3-16"に搭載されたコスワース製シリンダーヘッドの2.3リッターエンジン。

ライバルのBMWも黙ってはいられない。かつてM1に搭載していた、6気筒DOHC 3.5ℓ工ンジンの吸排気マニホールドを改良して、286ps/6500rpと出力を高めてM635 CSi クーペに載せた。(図5)

BMW M635 CSi に搭載された6気筒エンジン

量産エンジンに最初にターボ過給した、スウェーデンのサーブは、同社発明の独特の過給方式Automatic Power Control (APC) を採用し、燃費を10%改善したという。DOHC16バルブ2ℓ十ターボ・エンジンは、160ps/5500rpmをだしている(図6)。図7はその断面図である。

今はなきサーブ(スウェーデン)が、最初にターボエンジンの量産化を行った。当時としては最先端のDOHC 2リッター16バルブエンジン。

ライバルのボルボもまた2.3ℓシングル・キャブレターのDOHC16バルブで、112ps/5000rpmのエンジンを、デュアル・キャブにして、230ps/7200rpmと2倍の出力にチューンアップしている。

71年の経験をもつ、ご本家プジョーもむろんダマッているわけがない。横置きミッドシップ4WDのラリーカー用として、図8に示す1775cc DOHC16バルブ・エンジンの圧縮比を8に下げ、ブーストをナント1.7kg/cm2に高めて、320ps/8000rpmと他を圧している。

ブーストを高めて320PSを発生したプジョーのDOHC 16バルブエンジン。

と、オレは一見もの知り風だが、これはAutomotive Engineeringの1月号からピックアップしただけのことである。

何故、かくも長ったらしく引用したかというと、これらとニッサンFJ20ETと比較したほうが、メーカーのエンジニアとMFの読者にとって理解しやすいのではないかと思ったからである。オレの本心は「極めているか?」で、絶対評価したかったのであるが、「ロールスロイスと軽では比較にならない」とか「隣のクルマが小さく見えます」とか、比較しないと評価できない日本人は、比較のメートル原器を外国に置いてあり、ノーベル賞をとれば天皇陛下だって文化クンショウを下さるお国柄なので、止むを得ず舌鋒を鈍らせてでもこれに従うことにする。

4弁には美しい吸排気系が必要

FJ20E型エンジン(自然吸気バージョン)の分解写真。「4弁」や兼坂氏が「シンプル」というDOHCの構造がよく見える。

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