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米国自動運転の今。Waymoがリードする一方、GMクルーズは窮地に

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米国自動運転の今。Waymoがリードする一方、GMクルーズは窮地に

米国はEVはもちろんのこと自動運転技術においても世界をリードする自動車先進国だ。

そして、同国の自動運転車開発企業「Waymo(ウェイモ)」は、近代の自動運転技術を切り開いた存在と言えるだろう。

ウェイモの前身となるのは「Google」が2009年にはじめた自動運転プロジェクト「Self Driving Car Project」だ。当プロジェクトは、次世代技術の研究開発を行う「Google X」の事業として、スタンフォード人工知能研究所の元ディレクター「セバスチアン・スラン」氏と、Googleストリートビュー発明者が共同で主導のもとスタートした。

このプロジェクトには、後に「Aurora Innovation(オーロラ・イノベーション)」や「Nuro(ニューロ)」などで独立して活躍するエンジニアが多数関わっていたことでも知られている。2016年12月には開発部門を分社化し、Alphabet傘下のウェイモが誕生した。

同社は2018年12月アリゾナ州フェニックスにて、世界初となる自動運転車の有料タクシーサービス「Waymo One」をスタートした、言わば自動運転を象徴する存在だ。

本記事は、世界をリードするウェイモの取り組みや、米国の自動運転関連企業について見ていく。

堅実にサービスを展開する「Waymo」。2025年初頭には5エリアにサービス拡大予定

2018年12月、ウェイモは世界初となる自動運転車タクシーサービスをフェニックスでスタートして以来、2020年10月頃から一般にドライバーレスサービスを拡大。

2021年8月からは、サンフランシスコで利用者を限定したサービスを開始。2024年6月25日にはサンフランシスコで、レベル4の自動運転サービスの一般開放が発表された。

現在は同州のロサンゼルスでも利用者を限定した試験運用が実施されており、2024年度中の一般開放を目標としている。

ウェイモはこのように、実証実験からはじまり利用者を一部に限定しての試験運用の段階を踏んでから一般に開放する極めて堅実な手法によってWaymo Oneのサービスを拡大してきた。

そして現時点で自動運転サービスが開始しているエリアでは、1週間でおよそ10万回以上利用されている。

そんなウェイモは2024年9月、「Uber(ウーバー)」との提携を強化し、2025年初頭からテキサス州オースティンと、ジョージア州アトランタにて、ウーバーのアプリを通じてWaymo Oneのサービスを開始すると発表した。

これにより、車両の清掃、修理、その他の一般的業務をウーバーが請け負い、ウェイモは引き続きテスト・運用や道路支援、乗客のサポートを担当する。

現在利用者を限定して試験運用が行われているオースティンでは、2025年には完全にウーバーのアプリを通したサービスに移行する予定だ。

人身事故により窮地に立たされる「GMクルーズ」。2023年に日本での自動運転タクシーに向けた提携を発表したホンダにも影響が

ウェイモが着実にサービスエリアの拡大を進める一方、米国「ゼネラルモーターズ(GM)」の自動運転車開発部門「GMクルーズ」は苦境に立たされている。

2023年10月2日サンフランシスコにて、同社の無人自動運転タクシーが別の車両にはねられた女性をかわせずに再度ひいてしまう事故が発生した。この人身事故では被害者と接触後、安全を確保すべく再び動き出し路肩に寄せようとしたことにより、被害者女性をおよそ6メートルに渡って引きずった。

GMクルーズが運用する自動運転車両では、この他にも緊急車両との衝突をはじめとした様々な事故が確認されている。

2023年10月24日、サンフランシスコの人身事故や自動運転技術の安全性に関する情報に対する虚偽の疑いが引き金となり、カリフォルニア州の規制当局はクルーズに対し、自動運転車の配備と無人走行試験許可の一時停止を通告した。

GMクルーズはサンフランシスコの他にも、オースティン、ヒューストン、フェニックスでも無人タクシーの運用を行っていたが、この許可停止を受けて全米での無人タクシー事業を中止。米運輸省道路交通安全局によって車両のリコールを命じられたことにより、950台の自動運転車が回収された。

2023年11月19日には、2013年10月のGMクルーズ設立者であり、2022年からは最高経営責任者を務めたCEO「カイル・ボークト」氏が辞任したことを発表した。

この出来事によりGMクルーズだけではなく、日本のホンダも影響を受けることとなる。

2023年10月19日ホンダは、日本での自動運転タクシーサービスを2026年初頭に開始するべく、GMクルーズと共に2024年前半にサービス提供を担う合弁会社の設立に向けた基本合意の締結を発表したばかりだった。この計画では、6月までに合弁会社を設立する予定が立てられていたものの、事故の影響により計画に遅れが生じている。

人身事故の発生後から約半年後の2024年4月10日、GMクルーズはブログへの投稿により、アリゾナ州フェニックスで人間が運転する少数の車両での事業再開が明らかになった。

が、直後の同年7月23日には、ホンダと共同で進めてきた6人乗り自動運転車「クルーズ・オリジン」の開発凍結が発表された。

無人車両によるサンフランシスコでの人身事故は、社会に大きなインパクトを与えた出来事なだけに企業イメージの回復も難しく、ホンダも提携に対する姿勢を慎重にせざるを得ないのだろう。

自動運転技術開発を行う米スタートアップ企業の取り組み

現在、米国市場ではウェイモとGMクルーズが注目を集めているが、自動運転に取り組む企業はそれだけに限らない。

本項では、近年躍進を遂げる米国のスタートアップ企業「Aurora Innovation(オーロラ・イノベーション)」や「Nuro(ニューロ)」の取り組みを見ていく。

「Aurora Innovation」と「Continental」共同開発の自動運転システム「Aurora Driver」。ボルボとの提携により2024年、初の量産型自動運転トラック「Volvo VNL Autonomous」を発表

2016年に設立した「Aurora Innovation(オーロラ・イノベーション)」は、米国内で自動運転開発を手掛けるスタートアップ企業の一つだ。

元Google自動運転開発チームトップの「クリス・アームソン」氏、テスラ出身者の「スターリング・アンダーソン」氏、Uber出身者の「ドリュー・バグネル」氏の三名によって立ち上げられたことでも知られている。

同社は、トヨタ・デンソー、ボルボ、ヒュンダイ、などの自動車メーカーはもちろんのこと、2016年まではフォルクスワーゲングループと提携していたことでも有名だ。

そんなオーロラと提携する企業の一つ、ボルボは2024年5月20日、ラスベガスで開催された「ACT Expo 2024」にて、ボルボとして初の量産型自動運転トラック「Volvo VNL Autonomous」を発表した。

このモデルには、オーロラとドイツの自動車部品・タイヤメーカーの「Continental(コンチネンタル)」が共同で開発した特定条件下における完全自動運転を可能にする、レベル4の自動運転システム「Aurora Driver」が搭載される予定だ。

トラックを自動運転化するための自動運転システムの商用化は、Aurora Driverが世界初だ。

Aurora Driverには、高度なAIソフトウェア、デュアルコンピューター、400m以上離れた物体を検出できる独自開発のLiDAR、高解像度カメラ、イメージングレーダー、追加のセンサーを備えており、完全自動運転の状況下でも安全な走行が可能となる。

これまでAurora Driverは、実用化に向けてAuroraのバーチャル環境で数十億マイルもの距離でテストされ、公道でも150万マイル(約241万km)の試験走行を行なっている。

2027年の量産開始に向け、2025年までの間にシステムアーキテクチャの決定と、試験用ハードウェア初版の製造を行い、2026年から2027年には、ハードウェアおよびフォールバックシステムの検証作業に取り組む予定だ。

配送に特化した自動運転技術開発に取り組んできた「Nuro」のこれまで

米国のNuroは2016年9月、Self Driving Car Projectの創立技術者「ジアジュン・ジウ」氏と、2011年から同プロジェクトでソフトウェア開発リーダーを務めていた「デイブ・ファーガソン」氏によって設立された自動運転開発を手掛けるスタートアップ企業だ。

そんなニューロの特徴は、無人タクシーサービスを主力とすることが多い他の自動運転開発企業とは異なり、配送に特化して自動運転技術の開発に取り組んでいることだ。そのため、高速道路での運用ではなく、一般車と同じく公道での走行が想定されている。

2018年1月には集配所から配達先までの近距離(ラストワンマイル)の運用を想定した無人配送用小型電気自動車「R1」を発表した。

2018年6月の米国に約2,800店舗を構えるスーパーマーケットチェーン「クローガー」との提携にはじまり、同年8月にアリゾナ州スコッツデールの「Fry's Food Stores」との提携による自動運転車による食品配送の実証実験を開始。

2019年6月にはドミノ・ピザと連携を発表し、同年12月にはウォルマートと共同で新型車両「R2」を用いた配送サービスを発表した。これはヒューストン地区限定で試験運用を開始した後、2020年代後半以降にはエリアを全米に拡大してサービスを展開する計画が立てられている。

2020年2月には米運輸省と全米高速道路交通安全局によって、R2の安全規定適用除外が認定されたことにより、サイドミラーやフロントガラスなど一般車両に必要とされる装備を必要とせずに公道配達サービスを行うことが可能になった。

2021年6月には世界最大手の物流サービス企業「FedEx」との提携を発表し、小荷物の配送事業へ参入。同年12月にはセブンイレブンと提携し、カリフォルニア州マウンテンビューにて、初の自律配送サービスを導入すると発表した。

このように、ニューロはこれまで米国内の食品配送や物流業との連携によってサービス拡大を進めてきた。

2024年2月22日には、ソフトバンクグループ傘下の半導体設計大手企業である英国の「Arm(アーム)」とレベル4自動運転技術で提携し、最先端の半導体技術を活用することで自動運転技術を拡張する考えを明らかにした。

レベル4自動運転の導入が取り進められる米国。技術発展と安全性のアンバランスを解消できるか

現在米国では、無人タクシーサービスを主とするウェイモを中心にレベル4の自動運転技術が多数登場し、急速な発展を遂げている。

しかしながら、それと同時に安全面には課題が残されているのが現状だ。その点では前述した2023年10月2日、サンフランシスコにて発生したGMクルーズの自動運転車両による人身事故が大きく取り上げられている。GMクルーズは、無人走行試験許可の一時停止や該当車両のリコールが命じられた。

ところが実際にはGMクルーズに限らず、さらに多くの物損・人身事故が発生している。

DMV(自動車管理局)によると、2023年1月から10月6日までの期間で報告された自動運転自動車による事故・物損は、122件にまで及び、そのうちウェイモは46件、GMクルーズは40件だ。このうち人身事故では、死亡例もなく、重傷者の割合も低い。

自動運転技術を牽引する両社の車両は、タクシーとして運用されているため、当然ながら米国内に出回っている台数は多い。事故件数の大半を占めるのは当然の結果と言えるだろう。

2023年4月にGMクルーズが無人走行100万マイル達成に伴い発表した内容によると、100万マイル当たりの事故件数は手動運転の50件と比較して23件と半分未満に収まり、重大なけがを伴うリスクも73%減少したと発表している。

自動運転車両の場合、運転手による意図的な交通違反は行われないため、事故率が低いのは事実だ。さらに、122件のうち、自動運転に責任がある事故の詳細の割合も不明だ。

自動運転は高い安全性が担保されることを前提としている。

完全無事故とはいかないかもしれないが、少なくとも人が運転する以上の安全性が期待されるのは当然と言える。それでないと自動運転の意味がない。

レベル4自動運転技術が今後さらに発展するためにも、さらなる安全性の見直し・向上は急務だろう。華々しい技術革新は歓迎すべきものだが、悲劇を繰り返さないためには「車そのもの」に要求される安全性に強く目線を向けてもらいたい。

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