メルセデス・ベンツの9速AT「9G Tronic」遊星ギヤを自在に操るテクノロジーで世界最先端の多段化を実現
複数の変速比を同軸上に作り出せる遊星ギヤは、ステップATにおいて欠かすことのできない大切な要素。メルセデス・ベンツの9G-Tronic(9Gトロニック)は、4組の遊星ギヤの機能を最大限に引き出すことで生み出された。
TEXT:高橋一平(Ippey TAKAHASHI) ILLUSTRATION:Mercedes-Benz
ついにここまで来たか、という感で迎えられたメルセデスによる9速ステップAT、9Gトロニック。9というギヤ段数からイメージされるのは、想像もつかない複雑なメカニズムだが、この9Gトロニックに用いられている遊星ギヤの数はわずか4組。そのメカニズムは思いのほかシンプルだ。
わずか4組の遊星ギヤでこれだけ多くの変速比が作り出せるのは、複数のギヤセットの変速比を“混合”できるという遊星ギヤならではの特徴を最大限に引き出した結果だが、それもギヤを構成する金属素材や、その表面処理、そしてオイルの進歩があってこそ。かつては耐久性などの問題で制約が少なくなく、現在のような自由な使い方は難しかったのだ。しかし、自由度が広がって簡単になったというわけでもないのが興味深いところで、自由度が広がった結果、選択可能な組み合わせは無限に近いかたちとなり、人手だけでベストな組み合わせを探し出すのは困難に。現在では、この部分の検討にはコンピューター解析が不可欠な要素だという。何しろギヤ比だけでなく、引き摺り低減のために、解放状態のクラッチ要素を最小限に抑えることまで同時に求められるのだ。構造こそシンプルに見えるが、その動きも極めは複雑だ。
同軸上に並ぶ遊星ギアセットは4組。6組のクラッチ(締結要素)との組み合わせにより、10通りの変速比(前進9速+後進1速)を生み出す。高いトルク耐性と伝達効率を確保しながらメカニズムは最小限に抑えられている。
エンジンの駆動力によって作動するメインのオイルポンプはケース下方にレイアウト。ベーン式構造の採用などにより、小型ながら高い効率を確保することに成功。駆動力はメインシャフトからローラーチェーンで伝達される。また、バルブボディに直接マウントする電動式の補助オイルポンプを装備。電動ならではの高い応答性を活かし、状況に応じて運転状態をコントロールするオンデマンド制御を採用。アイドルストップ時には油圧回路に必要な制御油圧の維持を担う。