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電動化時代のステップATのありかた Case 2:縦置きATでベンチマークされるZF 8HPがGen.4に

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電動化時代のステップATのありかた Case 2:縦置きATでベンチマークされるZF 8HPがGen.4に

ZFの8HPが8速のギヤセットを持つことに変わりはない。だが、主役はギヤからモーターへ。H(Hydraulic Torque Converter)のかわりに高出力モーターを搭載する8Pをメインに据える。

TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO&FIGURE:ZF

ZF初の乗用車用ATである3HPは1965年に量産化された。先頭の数字が示すように3速だった。82年には4速の4HPが登場。90年には5速の5HPが現れ、01年に6速の6HPに進化し、09年に8速の8HPが出てきた。多段化が進んだのは、レシオカバレッジを広げ、燃費向上要求に応えるためである。同時に高出力化にも対応していった。高出力/高トルクに対応すると体格は大きくなり、重量は増える方向だが、それを極力抑えながら多段化を進めていった。

3速から4速に移行するのに17年を費やしたが、4速から5速は8年、5速から6速は11年で、6速から8速は8年である。8速になってからはすでに、12年が経過している。8HPを開発するにあたっては7速から10速を検討し、「縦置きではコストと効率の面で8速が最適」との決断を下している(横置きでは13年に9速の9HPを量産化)。10速や12速を実現するとなれば大きく重くなってしまい、多段化のメリットを奪ってしまうと結論づけた。

ZFは14年に8HPをGen.2に進化させた。第2世代を意味するGen.2では、レシオカバレッジを7.05から7.8に拡大。引きずり抵抗を減らし、コースティング機能(〜160km/h)に対応した。多段化こそしていないものの、それまでの流れと同様に燃費向上要求に応えるための対応だったことがわかる。

18年のGen.3では、レシオカバレッジを最大8.7(8HP76)まで拡大した。「メカ的には、Gen.3である程度のところまで極めた形です」と8HPを担当する石崎秀平氏が説明する。「この段階で改めて、8速、9速、10速のうち何速にするのが最も効率的なのか、調査しました。その結果、ZFが出した答えは8速です」

8HPは4つのギヤセットとふたつのブレーキ、そして3つのクラッチで構成されている。締結要素は5つ(ブレーキ2+クラッチ3)ということだ。ふたつのブレーキを仮にAとB、3つのクラッチをC、D、Eとすると、例えば1速から2速に変速するときは、クラッチCを解放してクラッチEをつかむアクションになる。ポイントは、締結要素の切り換えがひとつで済むことだ。8HPの制御がよく考えられているのは、飛ばしシフトでも切り替えがひとつで済むことである。1速から3速に飛ばすときは、ブレーキAを解放してクラッチEをつかむアクションになる。

ZFが8速にこだわり続ける理由| ZFは2018年にGen.3を展開する際に9速、10速の多段化を検討した。横軸はギヤセットの数で縦軸はブレーキとクラッチの締結要素の数。8HPのギヤセットは4つで、締結要素は5つ。そのうち3つを稼動させているので「5/3」。9/10速化した場合は、締結要素を増やすかギヤセットを増やさねばならず、デメリットがメリットを上回る。

他社のATでは変速の際に2ヵ所開いて2ヵ所閉じるケースがある。引きずりトルクや応答性の面では、8HPのように1ヵ所開いて1ヵ所閉じるほうにアドバンテージがあるのは明白だ。柴田敏克氏の説明に耳を傾けてみよう。

「ブレーキやクラッチを動かそうと思った際、CANで行なっている信号の処理と油圧の処理、それぞれのタイミイングのずれによって変な挙動が生まれたり、もたつきが生まれたりします。それを調整するのは相当難しい。トランスミッションはオイルの温度が低い状態から高い状態まで同じ挙動を示さなければなりません。上り坂があれば下り坂もあり、タイヤのスリップ状態があり、いろいろな状態のなかで最適な挙動を示さなければなりません」

キャリブレーションは完成車メーカーと一緒に行なうのが基本だが、ZFにはキャリブレーションエンジニアなるスペシャリストがいる。マニュアル通りに適合するのではなく、ZFの味を作る職人だ。8HPの変速制御の巧みさは極めて絶妙である。それをいったんバラしてまで多段化する必要があるかどうか……。

下の図は、Gen.3を開発する際、9速と10速を検討したときのマトリクスだ。前述したように、8HPは4つのギヤセットを持ち、締結要素は5つで、そのうち3つを閉じてふたつがフリーになっている。9速あるいは10速を選択するとなると、締結要素を増やすか、ギヤセットを増やすかしなければならない。どちらにしても、大きく、重たくなってしまうことは避けられない。それに、締結要素を6つにした場合は、稼動している要素が3つになり、残りの3つは重りになって引きずり抵抗が増す。

ZFが8速にこだわり続ける理由| Gen.3開発時に検討した、ギヤ段数による燃費向上効果を示したもの。6速から7速、8速と多段化した場合は(同時にレシオカバレッジも広くなることもあり)燃費向上効果が大きい。対照的に、8速を基準に9速、10速と多段化した場合は、8速のままレシカバを広げた場合に対するアドバンテージが小さくなることを示している。

こうした検討の結果、18年の段階でも8速を継続することになったのだ。グラフが示すように、6速から7速、8速と多段化を進めてレシオカバレッジを拡大した場合は相応の燃費向上効果が期待できるが、8速から9速、10速と段数を増やした場合は、6速から7速、8速へと段数を増やした場合に比べて、多段化の恩恵が期待できないことがわかる。

ZFは段数に関する検討はもはやしていない。「個人的な考えになりますが」と前置きしたうえで、柴田氏が説明する。「この先、これまでと同じ熱量で、さらに高トルクのエンジンを世の中に出していくことになるのか。そのエンジンに対してトランスミッションの段数を上げようという要望がマーケットから出てくるのか。そういう流れではないと考えています。国や政府、税制優遇などの面から、電動化に流れていくのは間違いありません。その流れに合わせたのがGen.4です」

定評のあるシフトフィールを生み出す「決まりごと」は世代が変わっても同じ| 8HP Gen.2のスケマチックを示す。各段ともブレーキ2(A、B)、クラッチ3(C、D、E)の5つの締結要素(シフトエレメント)のうち、3つを稼動させて成立させていることがわかる。各段の変速では、稼動している3つの締結要素のうち、ひとつを解放して別のひとつをつかむ最小限のアクションで済むのが特徴。Gen.4もこのシステムを踏襲。

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