「自動運転の目」LiDER技術発展に取り組む日本勢、普及拡大に向けた課題にどう向き合うか
自動運転技術の躍進、その変革の中核を担うのが「自動運転の目」と称されるLiDAR(ライダー)センサーだ。
矢野経済研究所の予測によれば、LiDARおよびレーザー市場の規模は、2017年の約25億円から2030年には約4,959億円へと、実に約200倍の飛躍的成長を遂げるという。この数字が示すのは単なる市場拡大ではなく、社会構造の根本的な変容の予兆であるとも言える。
また、同矢野経済研究所では2030年における自動運転用センサーの製品別シェアはレーダーが1兆3,914億円、カメラが1兆2,976億円、LiDARとレーザーが約4,959億円、超音波が約904億円とされている。
さらに、フランスのヨール・デベロップメント社が2019年に公表した調査結果によると、LiDAR市場が2024年には60億ドル(約6,600億円)規模に到達し、その7割を自動車関連が占めると予測している。
目次
自動運転システムを支える重要技術「LiDAR」
「ライダー:LiDAR(Light Detection and Ranging)」と呼称されるこの技術は、従来「レーザーレーダー」や「赤外線レーザースキャナー」としても知られていた。
自動運転システムの高度化に伴い車両の「眼」としての役割を担うセンサー技術の重要性が飛躍的に高まってきていることに加え、従来のカメラやミリ波レーダーが抱える限界を克服し、より精緻な環境認識が可能な点からも、LiDERは業界の期待を一身に集める存在となった。
自動車産業に革命をもたらす可能性を秘めた先進的なリモートセンシング技術であるLiDARの核心はレーザー光を用いた高精度な距離計測であり、物体検知能力と空間把握の精緻さにおいては従来技術を凌駕する性能を有している。
本技術の原理は、照射したレーザー光の往復時間を計測することで対象物までの距離と方向を算出するというものだ。特筆すべき点は、広範囲に渡って無数の「点」データを収集し、それらを統合することでリアルタイムに周囲の3次元空間を再構築できる点にある。
この「点描」のアプローチにより、従来のセンシング技術では捉えきれなかった微細な環境変化をも検知することが可能となった。
さらに、LiDARの優位性はその3次元(3D)観測能力と高い空間分解能にもある。
従来の電波レーダーと比較して、光の特性を活かした高い「光束密度」と短波長を用いることで、より精緻な環境認識を実現している。この特性は、粒子レベルの微小物体の検出にも威力を発揮し、地質学や気象学分野での活用実績を経て、今や自動運転技術の核心的要素として注目を集めるに至る。
このLiDAR技術は、その計測可能距離に応じて「長距離LiDAR」「中距離LiDAR」「短距離LiDAR」に分類される。各カテゴリの定義は開発企業によって若干の差異があるものの、一般的には短距離LiDARが10〜50メートル程度、長距離LiDARが200メートル以上、中距離LiDARがその中間領域をカバーするとされている。
このLiDAR、開発初期段階においては主に試験車両向けの特殊機器として位置づけられていたこともあり量産化への対応は考慮されておらず、その結果、極めて高額な製品であったようだ。
代表例として、Waymo(旧Google自動運転部門)の開発車両に搭載されたVelodyne社製ハイエンドモデルは、1台当たり75,000ドル(約800万円)という驚異的な価格となっていた。
しかしながら、市場の潜在性に着目した多数の企業やスタートアップが参入を果たし、LiDAR市場は急速な進化を遂げている。各社は量産化を視野に入れ、高性能と経済性を両立させた製品の開発にしのぎを削っている。
その結果、汎用モデルにおいては数万円台という、従来と比較して劇的に低コストな製品が登場するに至った。
前述した市場伸長は、まさにこの低価格化による普及拡大によるものだ。
現在の自動車業界では、LiDAR技術の高度化と実用化に向けた研究開発が加速度的に進展し、各社高機能化と小型化を両立させた独自技術の開発に注力し、製品差別化を図る激しい競争を展開している。
業界の注目を集めるSolid State式、レーザー光の精密制御が可能なMEMS式
開発初期段階、360度全方位検知型の回転式LiDARがで主流となりつつあったが、この回転式LiDARの構造的制約に課題が存在していた。
ルーフ上部など限定的な設置場所、モーター駆動による回転機構がもたらす小型化・軽量化の困難さ、さらには駆動部分の負荷に起因する信頼性と耐久性の問題が故障確率を高め、実用化に向けた障壁となっていたのだ。
これらの技術的難題を克服すべく、業界の注目は急速にSolid State(ソリッドステート)式LiDARへと移行している。
回転機構を排除したこの新世代のLiDARは、設計の自由度と信頼性において従来型を大きく異なる。特にデザイン性が重視される一般乗用車市場において、ソリッドステート式LiDARの優位性は顕著だ。
ソリッドステート式LiDARの特徴はその静的なスキャン方式にある。
特定方向のスキャンに特化したこの技術は、視野角の制限という短所を抱えつつも、複数ユニット配置することにより全方位検知を実現する。小型化に成功したことに加え、堅牢性や設置の自由度の高さも魅力的だ。
さらにメムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)技術の導入は、ソリッドステート式LiDARの可能性を一層拡大している。Micro Electro Mechanical Systemsを日本語にすると「微小電気機械システム」となる。MEMSミラーを用いたレーザー光の精密制御は、高解像度かつ高速なスキャンを可能とし、自動運転車の環境認識能力を飛躍的に向上させる。
MEMS技術はシリコン基板やガラス基板、有機材料上に、機械要素部品、センサー、アクチュエーター、電子回路を微細加工技術によって高度に集積化したデバイスだ。その応用範囲は多岐にわたり、プリンターヘッド、自動車のエアバッグ、加速度センサー、プロジェクターの光制御ミラーデバイスなど、現代技術の根幹を支える重要な要素となっている。
このMEMS技術をLiDARに適用することで、自動運転技術は新たな次元へと進化を遂げつつある。
MEMS方式のLiDARは電磁式MEMSミラーを用いたレーザー光の精密制御を得意としている。このアプローチにより、高速かつ高精度なスキャンが可能となり、自動運転車両の環境認識能力を飛躍的に向上した。
業界の最前線に立つボッシュやパイオニアなどの企業は、MEMS方式LiDARの開発に積極的に取り組んでいる。例えばパイオニアはMEMS技術を応用した電磁式小型ミラーとレンズの組み合わせにより、2つの先進的なシングルレーザータイプを製品化している。
ラスタースキャン方式は遠距離センシングに特化しており、広範囲にわたる高精度な環境マッピングが可能。高速道路走行などの長距離の予測が必要な場面で威力を発揮する。
対するウォブリングスキャン方式は近距離・広範囲のセンシングに最適化されており、都市部での複雑な交通環境や狭小路での走行など、即時的な状況判断が求められる場面での活用が期待される。