バッテリーの屋根上搭載を実現した「エルガEV」。いすゞが国内初フルフラットフロアEVバスを公開|JAPAN MOBILITY SHOW 2024
幕張メッセで開催された「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」で、いすゞ自動車は「カーボンニュートラルソリューション」をテーマに掲げ、EV開発の取り組みを紹介した。中でも注目を集めたのが、国内初となるフルフラットフロアを採用したBEV(Battery Electric Vehicle)路線バス「エルガEV」だ。その特徴や技術的背景について、いすゞ自動車GR国内商品政策部中小型・バスグループのシニアエキスパート小林隆氏に話を伺った。
TEXT&PHOTO:那須野 明彦(Akihiko Nasuno)
主催:一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)
革新的なフルフラットフロアとノンステップ設計
「エルガEV」は、単なる環境対応バスにとどまらず、公共交通の未来を見据えた次世代バスとして設計されている。小林氏は、「いすゞがこれまで培ってきたディーゼルバスの技術を基にEV化を進め、バス事業者の脱炭素化に貢献しています。さらに、国内初のフルフラットフロアを採用し、バリアフリーや快適な乗り心地を実現しました」と語る。
従来のディーゼルエンジンバスでは、車体後部に巨大なリアアクスルがあるため、後部座席に座るためには階段を上らなければならなかった。しかし、エルガEVではリアアクスルの左右それぞれにモーターを内蔵したインアクスルモーターを採用。タイヤハウス間のフルフラット化、低床化が実現し、車内全体がフルノンステップとなった。これにより、乗降口から最後部座席までの間に段差がなくなり、車内での移動がスムーズに行えるようになった。
「特に車いすやベビーカーを利用する方にとって、車内のバリアフリーが大幅に向上しました。また、荷物おを持つ乗客も移動しやすくなり、乗降のストレスが大幅に軽減されました。車内空間全体に広がりを感じる設計になっています」と小林氏。
「ノンステップバスの導入は国の方針としても推奨されていますが、従来のディーゼルバスでは構造上難しい点がありました。しかし、エルガEVは、EV化によってその課題を克服し、完全にフラットな車内レイアウトを実現しました。これにより、公共交通の新たな基準を打ち立てたと自負しています」と小林氏は自信を持って語った。
屋根上にバッテリーを搭載し、走行距離360kmを達成
「エルガEV」は動力性能も非常に優れている。2基のモーターは125kW(170馬力)の出力と480Nmの最大トルクを発揮し、ディーゼルエンジンに匹敵する走行性能を提供する。また、バッテリーは車両の屋根上と後部床下に合計11個搭載されており、その総容量は220kWhに達する。これにより、一充電での走行距離は360km(国土交通省の届出値)を達成。実際の路線運行では約150kmが目安となるが、都市内の運行には十分な性能を持つ。一充電でこれだけ走行できれば実用性は十分だろう。
「バッテリー配置には工夫を凝らしており、屋根上に7個、後部座席下に4個のバッテリーを搭載することで、車内空間を最大限に確保しています」と小林氏は説明する。
EVバスならではの静かで快適な乗り心地
エルガEVのもう一つの魅力は、その静かで滑らかな乗り心地だ。ディーゼル車特有のエンジン音や振動が大幅に低減され、加速や減速もスムーズ。乗客にとっては非常に快適な移動体験を提供できる。また、運転手への配慮も忘れない。「ドライバーが異なる車両に乗り換えても違和感がないよう、スイッチのレイアウトや計器のデザインはディーゼル車と共通化されています」と小林氏は語ってくれた。
また、「CHAdeMO」方式の急速充電に対応しており、3〜4時間でフル充電が完了する。バッテリー技術の向上と充電インフラの整備が進めば、今後さらに利便性が高まることが期待される。
2025年の大阪万博で体感できる、未来の公共交通
エルガEVは、2025年に開催される大阪・関西万博で正式に運用が開始される予定だ。万博会場内での移動手段として使用される計画が進んでおり、来場者はこの次世代バスを万博会場で体験できる。また、単なるBEV路線バスというだけでなく、自動運転技術の導入も視野に入れており、公共交通の未来がどのように進化していくのかを実感できる場になるだろう。
静かで快適な乗り心地、開放感ある車内レイアウト、そして段差のないフルフラットフロア。いすゞエルガEVは未来の公共交通を先取りしている。ぜひ、大阪万博で体感していただきたい。