開く
NEWS

世界初の燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功

公開日:
更新日:
世界初の燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功

大成建設、埼玉大学、中部大学、かずさDNA研究所は、世界で初めて燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功した。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」プロジェクトで、大成建設・埼玉大学・中部大学・かずさDNA研究所は外来遺伝子を導入することなく、燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功。微細藻類の一種であるシアノバクテリアに対し、特定遺伝子の発現を抑制・強化することで細胞内の燃料物質である遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)を効率的に細胞外に生産することを実現した。

FFA生産能力の強化と生産されたFFAを速やかに細胞外に放出させる機能の向上により、燃料物質であるFFAを容易に回収できる。また、培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、工業利用時の製造や運用に係るコストなどの軽減も期待できる。なお、今回作製した藻類は、外来遺伝子を含まない非組み換え生物である。

大成建設らは今後、作製した藻類のFFA生産能力の向上を図るとともに、藻類バイオ燃料製造システムの構築と実証試験を行う。藻類バイオ燃料の普及・拡大を推進することで、NEDOとともに脱炭素化社会の実現を目指すという。

1.概要

自然界に生息する微細藻類の中には、油脂などの燃料物質を細胞内に生産・蓄積できる細胞内油脂生産藻類(※1)が存在する。この燃料物質は、ジェット燃料やディーゼル燃料の原料として利用できるため、こうした微細藻類を用いたバイオ燃料生産に関する研究が世界的に進められている。

図1:従来のバイオ燃料製造フロー
図1:従来のバイオ燃料製造フロー

通常、藻類バイオ燃料の製造では培養した微細藻類を回収・乾燥させた後、細胞内に蓄積された燃料物質を有機溶媒などで抽出している(図1)。この工程では、製造に係る消費エネルギーの低減が重要な課題となっている。

省エネルギー化を図る手段として、細胞外に燃料物質を生産させる遺伝子改変手法がある。従来の研究では、大腸菌などの外来遺伝子を導入して生産を試みていたが、遺伝子組み換え生物の工業利用には、環境中への拡散防止に係る規制(カルタヘナ法)(※2)にのっとり、設備の導入や厳密な運転管理が求められる。

今回、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(バイオものづくりプロジェクト)(※3)では、外来遺伝子を導入することなく燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功した。

微細藻類の一種であるシアノバクテリア(※4)Synechococcus elongatus PCC 7942株(以下、PCC7942株)に対して特定遺伝子の発現強化などを行うことで、燃料物質である遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)を効率的に細胞外に生産させることに成功。

今回作製した藻類は、FFA生産能力の強化と生産されたFFAを速やかに細胞外に放出させる機能の向上により、燃料物質であるFFAを容易に回収できることが期待できるという。また、培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、工業利用時の製造や運用に係る消費エネルギーとコストの軽減が期待できるという。さらに、外来遺伝子を含まない非組み換え生物(※5)であることも大きな特徴と言える。

2.今回作製した藻類の特長

(1)燃料物質である“油”(FFA)の細胞外への放出を強化

図2:非組み換え藻類における細胞外へのFFA生産機構
図2:非組み換え藻類における細胞外へのFFA生産機構

PCC7942株が有する特定遺伝子の発現を抑制・強化することにより、細胞内でのFFAの生産能力を向上させるとともに、細胞内のFFAを速やかに細胞外に放出させることを実現した(図2)。ここでは、遺伝子改変技術を用いてFFAからアシルACP(※6)への合成反応を抑制し、膜脂質からFFAの生成反応とFFAを細胞外に放出する機能を強化することで、FFAの細胞外生産を可能にした。

(2)燃料物質である“油”(FFA)を細胞外で容易に回収可能

図3:開発した細胞外FFA生産藻類の燃料生産イメージ(左)と培養の様子(右)
図3:開発した細胞外FFA生産藻類の燃料生産イメージ(左)と培養の様子(右)

作製した藻類の乾燥菌体重量あたりのFFA生産能力は、1日当たり31mg-FFA/g-DCW(※7)と、細胞内油脂生産藻類(1日当たりFFAとして換算した生産能力:10~120mg-FFA/g-DCW)と比較すると中程度。しかし、細胞外に生産されたFFAを容易に回収でき(図3)、また培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、培養に係るエネルギーやコストの軽減が期待できる。

3.今後の予定

大成建設らは、今回開発した細胞外FFA生産藻類のさらなる生産能力向上を図るとともに、藻類バイオ燃料製造システムの構築と実証試験を行う。藻類バイオ燃料の普及・拡大を推進し、脱炭素化社会の実現を目指すとしている。

NEDOは、このような産業用物質生産システムの実証例を増やしていくことで、バイオ由来製品への社会実装の加速や新たな製品・サービスの創出、さらに日本のバイオエコノミー活性化に寄与していくという。

※1:細胞内油脂生産藻類
ボツリオコッカス(Botryococcus)、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)、シュードコリシスティス(Pseudochoricystis)、ユーグレナ(Euglena)やナンノクロロプシス(Nannochloropsis)などが知られている。乾燥菌体重量あたり50%程度の燃料物質を蓄積する種も報告されている。燃料物質には、植物油に相当する中性脂質(トリグリセリド)、重油に相当する炭化水素、脂肪酸と脂肪酸アルコールの化合物(ワックスエステル)が挙げられる。

※2:カルタヘナ法
「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称「カルタヘナ法」)により、国内における遺伝子組み換え生物の使用などを用いる際の規制措置を講じている。また、遺伝子組み換え生物による生物多様性への影響に関する審査や適切な使用方法について規定している。

※3:「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(バイオものづくりプロジェクト)
事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
研究開発項目:[3]産業用物質生産システム実証
事業期間:2020年度~2026年度(予定)
事業概要:サイト内リンクカーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発

※4:シアノバクテリア
ラン藻とも呼ばれる、酸素を発生する光合成を行う原核生物。

※5:外来遺伝子を含まない非組み換え生物
ここでは、外来遺伝子を含む生物を遺伝子組み換え生物、外来遺伝子を含まない生物を非組み換え生物とする。

※6:アシルACP
細胞の膜脂質を合成するための原料となる、アシルキャリアタンパク質(ACP)に脂肪酸が結合した物質。

※7:DCW
Dry Cell Weightの略。乾燥菌体重量を示す。

PICK UP