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スマホ熱中症ならぬEV熱中症のリスクは?EVは日本の猛暑に耐えられるのか

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スマホ熱中症ならぬEV熱中症のリスクは?EVは日本の猛暑に耐えられるのか

連日の猛暑で急増している「スマホ熱中症」。スマホに使用されているリチウムイオン電池が暑さなどにより膨張してしまう現象だが、同じくリチウムイオン電池を使用するEVは?危険な暑さがあとしばらくは続く日本で「EV熱中症」のリスクはないのだろうか。

真夏に急増するスマホ熱中症とは

スマホの使用環境は0〜35℃が推奨されているが、2023年7月12日、東京・八王子では今年の最高気温である39.1℃を観測。暑すぎる日本の夏に音を上げたくなるのは人間だけでなくスマホも同じだ。

スマホに使用されているリチウムイオン電池は熱の影響を受けやすく、高温になると膨張してデバイス本体が変形してしまう。動作が遅くなったり操作ができなくなったり、満充電してもバッテリーの持ちが悪くなったり、最悪の場合は発火するおそれもある。こうした高温によるスマホのバッテリーの不具合は「スマホ熱中症」と呼ばれ、修理店に駆け込むユーザーは昨年よりも増えている。

リチウムイオン電池に不具合が生じる原因

リチウムイオン電池に不具合が起きる原因は、大きく分けて3つある。

物理的な破損

リチウムイオン蓄電池の内部は、正極側と負極側をそれぞれの電解液で満たされており、セパレータで区切られている。リチウムイオンは、セパレータを少量ずつ通り抜けることで反応が進み、充放電を使い分けることができる。万が一、衝撃や圧力などが加わりセパレーターが破損した場合、正極と負極が短絡した部分に過剰な電流が流れ、不具合が引き起こされる。

経年劣化

他の二次電池と同じく、充電・放電を繰り返し使用するリチウムイオン電池にも寿命がある。物理的なダメージがない状態で使用しても、充放電を繰り返すサイクル劣化や、満充電または電池切れ状態で放置する保存劣化により徐々に蓄電できる量が減り、満充電にしても以前より長く使えなくなったと感じるようになる。

スマートフォンのバッテリー寿命は2〜3年と言われており、充電サイクルでいうと約500回が目安。EVのバッテリー保証は、各メーカー、新車登録日より8年間または走行距離160,000kmのいずれか先に達するまでとしていることが一般的だ。

高温による劣化

リチウムイオン電池は高温環境下で使用すると、内部の化学反応が促進されること圧力が上昇し、電解液の分解やセパレーター劣化が進むことで電池の寿命が短くなる。高温下でリチウムイオン電池が急速に膨張してスマートフォン本体が膨らむことがあるが、これは電池内部の部品に圧力がかかっている状態であり、物理的な損傷を引き起こすこともある。

環境対応車普及方策検討会が調査した「Liイオン電池の寿命に影響を与える外部要因について」では、環境温度25℃と45℃で比較した場合、45℃の方がリチウムイオン電池の劣化が進むことが明らかになっている。iPhoneやXperiaなどのスマートフォンの仕様書でも、保管温度の上限が40℃〜45℃に設定されていることが多い。夏季の直射日光により急激に温度が上昇したスマートフォンは、リチウムイオン電池に大きな負荷をかけ、熱暴走や膨張などを引き起こしやすいのだ。

EV・バッテリーメーカーが講じる安全策

では、EV熱中症は起こり得るのか?

一般的なEVバッテリーには、充電可能な二次電池が採用されている。その中でも主流のリチウムイオン電池は、公称電圧が3.6Vであり、エネルギー密度が1.5倍〜5倍高いのがメリットだ。

しかし、リチウムイオン電池の性質から高温下で発火するリスクがある。駆動用バッテリーを開発しているメーカーでは、高温下でも稼働できる安全性の確保をはじめ、大きな衝撃や破損から守るための対策を講じている。

金属リチウムの適切な配合と電子制御

自動車に搭載するリチウムイオン電池の正極には、主にコバルト酸リチウム・ニッケル酸リチウム・マンガン酸リチウムといった金属リチウムが使われている。

金属リチウムは、リチウムを多く含むほど充電容量を大きくできるため、小型で長時間使用可能なバッテリーを開発可能だ。ただし、スマートフォンのバッテリーにも採用されているコバルト酸リチウムは、リチウムを出し切ってしまうと結晶の破損によって発熱が生じ、事故の誘発のリスクが伴う。これに対し、リチウムを出し切っても結晶が壊れない金属リチウムがマンガン酸リチウムだ。これらの金属リチウムの特性に沿って、適切な配合を行なうことで安全性の高い自動車用リチウムイオン電池が完成する。

また、金属リチウムの適切な配合に加えて、リチウムの出し切りによるショートを防止する電子制御も行われている。過充電・過放電を防止できる保守管理機能を搭載することで、安全に走行できるEVを開発できるのだ。

冷却システムによるバッテリーの熱管理

リチウムイオン電池の発熱を抑えるため、EVバッテリーには熱管理の一部として冷却システムが搭載されている。

例えば、車両と外気の動きを利用した空冷システムや、冷気を循環してバッテリーの熱を外気に逃すクーラント、エアコンシステムの熱交換器を利用し、冷房からバッテリーを直接冷却する熱管理システムなどが対策法に挙げられる。トヨタ・ホンダ・フォードからは、車両と空調システムを連携させた革新的な熱管理システムが発表されている。

熱膨張を考慮した構造と液体冷却

テスラでは、乾電池型のリチウムイオン電池を連結したバッテリーモジュールを採用している。このバッテリーモジュールは、隙間をつくった円筒型モデルになっているため、リチウムイオン電池が熱で膨張してもその隙間を埋める形になっている。

さらにテスラは、シャシーにある数千個に及ぶ円筒型バッテリーセルを独自の高性能冷却システムで熱管理する対策を行なっている。バッテリーセルに対して、金属製の冷却管を蛇行する形で設置。柔軟な冷却管をバッテリーセルの表面に常時接触させることで、直接冷却を実現した。また、バッテリーセルの間には冷却プレートを挟んでおり、プレートに平行する形で5つの冷房パスを通し、熱伝達の効果を上げている。

このように、空冷と冷房による直接冷却、テスラの例のような液体冷却などで、EVバッテリーの熱対策が講じられている。

EV充電器にも求められる熱対策

EVにおける安全性の高い熱対策は、EVバッテリーだけではなく充電器にも求められている。

今月、山梨県道志村の道の駅どうしにある急速充電設備では、機械内高温異常によってEVに充電ができなくなる事態が生じた。



道の駅どうしがX(旧Twitter)に不具合を投稿したところ、「iPhoneと同じ現象」とスマホ熱中症を連想させるコメントや「ガソリンスタンドはこんな事おきない」「EV車、買うのは厳しいね」とEVの使用を不安視する声が寄せられた。

充電ステーションの普及は急ピッチで進んでいるが、毎年最高気温を更新する日本の危険な暑さを考慮し、充電インフラが機能停止にならないような対策が求められる。

EV熱中症は杞憂だが…

危険な暑さが普通になりつつある日本の夏だが、各メーカーによる空冷・冷房・直接冷却などの対策や、バッテリーモジュールの構造自体を変える取り組みにより、EV熱中症のリスクは杞憂と言えそうだ。

とはいえ、高温がバッテリーや車体に負担をかけることには変わりなく、ETCやドライブレコーダー、カーナビなども熱に弱いことを忘れてはいけない。炎天下に長時間駐車するようなことは避けて、サステナブルなEVライフを目指したいものだ。

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