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アルミをうまく使えばクルマは変わる:BOCARの超真空高圧ダイカスト技術

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アルミをうまく使えばクルマは変わる:BOCARの超真空高圧ダイカスト技術

高真空アルミダイキャスト部品の製造で存在感を増しているのが、BOCAR(ボカール)だ。メルセデス・ベンツCクラスへの適用例をサンプルに、高真空ダイキャストの特徴を探る。

TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO:山上博也(Hiroya YAMAGAMI)/DAIMLER

メルセデス・ベンツ(ダイムラー)にすれば、ミッション・インポッシブルだったに違いない。2014年にデビューしたCクラス(W205)は、アメリカ、ヨーロッパ、中国の各地域で生産が予定されていた。言わずもがなで基幹車種である。基本形となるセダンのほかにステーションワゴンがあり、クーペがあり、カブリオレがあり、中国にはロングホイールベース仕様もある。先代(W204)に比べてボディサイズがひとまわり大きくなったこともあり、それまでの構造だとホワイトボディ(ドア類を含む)の重量は30.4kg増えてしまうことが判明した。

W205型Cクラスが掲げるコンセプトはアジリティ(俊敏さ)だ。俊敏な動きを実現するためにも、また、厳しくなるいっぽうの燃費規制に対応するためにも軽量化は必須要件で、各部をスチールからアルミに材料置換して71.4kg軽量化した。30.4kg重くなるはずだったので、差し引きで41kgの軽量化である。

この軽量化のうち、13.2kgはスチールからアルミの構造部材に置き換えることによって達成した。具体的には、フロント左右のショックタワー(31%軽量化)、リヤ左右のショックタワー(38%軽量化)、左右のロンギテューディナルメンバー(50%軽量化)、そして、リヤクロスメンバー(46%軽量化)である。これら7部品の製造を請け負ったのが、メキシコに本社があるボカール(BOCAR)だ。

ボカール製アルミ構造部材使用部位
メルセデス・ベンツCクラス(W205)におけるボカール製高真空アルミダイキャスト部品の使用部位を示す。前後左右のショックタワー、左右のロンギテューディナルメンバー、そしてリヤクロスメンバーの7点だ。前型では36のスチール部品で構成されていた。これを7点に統合し、13.2kg (41%)軽量化。7点はいずれも剛性の要であり、車体剛性を示す固有振動数はねじりで1.4Hz、曲げで6.4Hz向上した。

ボカールがダイムラーと取引をするのは、Cクラスのアルミ構造部材が初めてだった。前後のショックタワーをはじめ、製造を請け負う7部品は車体剛性を支配する要である。アジリティを生かすも殺すも、7部品の出来次第だ。どんなに控え目に見積もっても重要部品だが、ダイムラーは初取引の相手に発注した。しかも世界4工順のSOP差は7ヵ月で、サプライヤー6社連携のもとで一気に立ち上げ。ミッション・インポッシブルという表現では生ぬるく、無謀な取引に終わりかねない決断だった。

もちろん、基幹車種の重要部品を信用ならない相手に任せる訳はない。勝算あってのことだ。ボカールの技術力を買ったのである。アルミ7部品はボカールが得意とする高真空ダイキャストで製造される。高圧(65〜200MPa)で鋳型内に注湯するまでは高圧ダイキャストと同じだが、鋳型内を高真空(3〜5kPa)にするのが特徴。その際、ガス抜きした状態で流すため、高圧ダイキャストと違って巣ができない。巣ができないので、溶接ができる。また、巣がないため冷却後に熱処理を行なうことが可能で、高い伸び率を実現することができる。Cクラスに提供するダイキャスト部品の場合、120度まで曲げても破断しないという。

著者
世良 耕太
テクニカルライター

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめとするモータースポーツの取材に携わる。10年間勤務したあと独立。モータースポーツや自動車のテクノロジーの取材で欧州その他世界を駆け回る。

部品サプライヤー・自動車メーカーのエンジニアへの数多くの取材を通して得たテクノロジーへの理解度の高さがセリングポイント。雑誌、web媒体への寄稿だけでなく、「トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日」(著)「自動車エンジンの技術」(共著)「エイドリアン・ニューウェイHOW TO BUILD A CAR」(監修)などもある。

興味の対象は、クルマだけでなく、F1、建築、ウィスキーなど多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021選考委員。

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