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モーターも"クール"な方がいい|高温による不可逆減磁を防止し、損失を低減しながら熱を奪う

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モーターも"クール"な方がいい|高温による不可逆減磁を防止し、損失を低減しながら熱を奪う

燃料の熱エネルギーを運動エネルギーに代える仕組みに加え、動弁系など摩擦抵抗の発生源も多い内燃機関に冷却・潤滑が必要不可欠ということは誰もが想像しやすいだろう。 しかし機構もシンプルなモーターにも冷却が欠かせないのはなぜなのか。(トヨタの第五世代ハイブリッドシステムに採用されたモーター冷却について、2022年5月発行のMotor Fan illustratedから振り返る。情報は当時のもの。)

TEXT:遠藤正賢(Masakatsu ENDO) PHOTO&FIGURE:TOYOTA/MFi

そもそも、モーターを冷却・潤滑しなければ、どのような問題が発生するのか?ノア/ヴォクシーで初採用された第5世代ハイブリッドシステムのモーター設計、冷却性能を中心に担当した長井信吾主任は、こう明快に答えてくれた。

長井:モーターの構成部品の耐熱温度を超えないようにする、というのが第一です。たとえば、モーターが熱くなって磁石が耐熱温度を超えると『不可逆減磁』といって、磁力が下がって戻らなくなり、本来のトルクが出なくなってしまうんです。

ではモーター、そして磁石は、どのようなプロセスを経て熱を帯びていくのか。

長井:電流を流していくと銅=コイルは温度が上昇していきます。電磁鋼板にも磁束が入っていくことで全体が高温になります。磁石も磁束が入ることで発熱しますし、コイルや電磁鋼板から受熱することで温度が上昇します。温度が上がりすぎると磁力が落ちて使い物にならなくなるので、そうならないよう冷やす必要があります。

トヨタ最新の第5世代ハイブリッドシステム|トランスアクスルはステーターコイルの巻線工法を全節巻から短節巻に変更しつつ、ねじり形状を変更してカフサ(cuffs support)を廃止。絶縁性確保のための粉体を樹脂に変更することで、コイルエンドの高さを低減した。さらに歯車の設計も見直すことで、先代ノア/ヴォクシーの第3世代ハイブリッドシステムに対しエンジン軸とタイヤ軸の軸間距離を16mm短縮。約15%もの小型軽量化に成功している。

同じく第5世代ハイブリッドシステムのモーター冷却設計を担当した岡崎 唱主任はこう指摘する。

岡崎:磁石の上限温度をひと言で定義するのは難しく、磁界によっても温度のクライテリアが変わります。ですから、モーターがどんな動作状態で使われているかでも守らなければならない上限温度が変わってきます。そこが冷却設計するうえで難しいところですね。

THS IIのモーターの温度管理は、実車ではどのように行なわれているのだろうか。

岡崎:モーターの負荷状態を見ながら、磁石の温度が限界温度を超えないように部品保護の制御を組んでいます。つまり磁石が過熱しそうになったらトルクを絞るなどして問題のない運転状態に戻さなければならないわけですが、それはモーターの使用領域を狭め、動力性能を低下させることになる。そうならないように冷却を設計しています。シャフトや磁石は回転体で温度をセンサーで検知するのが難しいので、ステーターにセンサーを貼り付けて温度をモニタリングしています。

磁石配置最適化によって出力密度が向上|ローター内部の電磁鋼板に内蔵される磁石は、第3世代(上の従来型)では直線状に2枚配置していたのに対し、第4世代では逆三角形に3枚内蔵して、出力密度を36%アップしつつコイルエンド高を28%ダウン。最新の第5世代では台形に6枚埋め込むことで、出力密度をさらに38%高め、コイルエンド高も18%低減している。いっぽう磁石の枚数が増えることで孔が増え、電磁鋼板の体積も減少するため、電磁鋼板材料自体を見直して必要な強度を確保した。

いま改めてハイブリッドを復習する

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