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「この技術、太陽電池の開発に使えませんか」この一言で復活した「曲がる太陽電池」開発のいま|株式会社PXP

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「この技術、太陽電池の開発に使えませんか」この一言で復活した「曲がる太陽電池」開発のいま|株式会社PXP
「曲がる太陽電池」は立体構造にも貼り付け可能(写真はプレスリリースより)

神奈川県相模原市に拠点を構える、PXP株式会社(以下、PXP)は独自技術で次世代太陽電池の開発をめざしている。最高技術責任者を務めるのは杉本広紀氏。かつて大手石油メーカーの太陽電池パネルの開発にも携わったスペシャリストだ。太陽電池開発の専門家が集結した同社では、2020年の設立ながら既にいくつかの独自技術も開発している。技術面のこだわりを教えてほしいという、TOPPER編集部のインタビューに快く応じてくれた。

TEXT&PHOTO:石原 健児(Kenji Ishihara)

軽くて曲がる、割れない太陽電池を

太陽電池セル(左)、セルを貼り合わせた太陽電池パネル(右)

まず杉本氏は、机の上に2つのシート状のものを並べた。「小さいパーツが太陽電池を形作る最小単位のパーツ『セル』。複数のセルを繋ぎ合わせると、となりの『パネル』が完成します。」セルはフィルム状シートで薄くて軽い。人差し指と親指でつまむと、ぐにゃりとたやすく曲がった。厚みは髪の毛よりも細く、わずか0.05mmだという。

二本の指でたやすく曲がるほど柔らかい

PXPが目指しているのは「軽くて曲がる、割れない太陽電池」だ。杉本氏は、従来の太陽電池との違いを説明してくれた。一般的な太陽電池では、ガラスなど絶縁性があるベース面に、シリコンなど光を電気に変換する素材を重ね合わせて製造する。

「シリコン製など従来の太陽電池は、ガラスのような脆弱な基盤のため、曲がりにくく割れやすいというデメリットがあります。そのため屋根への設置はもちろん、車載用として使用する際にも厚いカバーガラスで覆う必要がありました」。

セルを裏返すと、銀色のベース面が表れた

PXPの太陽電池は、脆弱な基盤ではなく金属箔を使用しており軽くて強い。高さ40cmから直径約2cmの氷を落とす実験では、シリコン製が割れたのに対し、曲がる太陽電池は無傷だった。実用面での大きなメリットは、その柔軟性だ。セル同士を細かく貼り合わせていくことが可能なため、平面だけでなく立体的な場所にも使用できる。

杉本氏はもう一枚、同じ大きさの太陽電池パネルを見せてくれた。片方のパネルの表面には白い模様が見える。市販品だろうか?

「これは両方とも、当社で製造したもので、黒い方が当社の新技術『漆黒の高意匠セル』です。」

通常、太陽電池の表面には白い櫛状の電極が見えるが、新技術では電極が見えない製品を創り出した。実は、漆黒の意匠や貼り合わせ技術は偶然生まれたものだという。2023年のこと、膜を塗布する際に研究員の1人がバルブ調節を間違え、黒いセルができあがった。誤りを謝罪するスタッフだったが、調べてみると太陽光の変換性能は従来品と遜色がない。「見た目が黒くなったのが、逆に製品の特長として訴求できるのではと感じたんです。」以前のセルと比べてみると見た目の良さは一目瞭然。すぐに製品として採用した。

漆黒の高意匠セル(左)、従来の製造品(右)を並べてもらった。その差に驚いた。

太陽電池の性能を左右する、貼り付け技術

著者
石原健児

取材ライター。
1966年東京生まれの北海道育ち。大学卒業後、イベント関連企業、不動産業を経て印刷業へ。勤務先のM&A・倒産をきっかけに2016年からライター業を始める。医療系WEB媒体、ビジネス誌「クオリタス」などで活動。医師、弁護士、企業経営者、エンドユーザーなどを対象に取材してきた。総取材人数はだいたい1500人。就学前までに自動車や転落事故で「九死に二生」位は得ていると思う。最近好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。

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