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欧米勢が積極投資を行うパワー半導体、追撃する中国勢。日本勢の一手は

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欧米勢が積極投資を行うパワー半導体、追撃する中国勢。日本勢の一手は

半導体素材SiC(炭化ケイ素)を用いた、パワー半導体を採用する日本車メーカーが増加している。

SDGsの促進、各国が推進する積極的なEV化施策において、電力を効率良く使用することが要求される。その中で、キーデバイスとして注目されるのが「SiCデバイス」だ。このSiCは、従来のシリコンによるパワー半導体よりも大幅に電力損失が小さいという特性を持っている。このことから、次世代パワー半導体とも呼ばれている。

このSiCは各社採用発表が相次いでおり、本格的な実用化段階に突入している。

ILLUSTRATION:Shutterstock

多くの企業が採用開始したSiC

2023年3月、レクサス初のEV専用モデルである「RZ450e」を発売したトヨタ自動車もその一つだ。新型RZでは駆動装置であるeアクスルにSiCパワー半導体を搭載。トヨタのEVとしては初となる。

ホンダも25年発売予定のEVでSiCパワー半導体搭載のeアクスルを採用予定のようだ。EVは、電池にためた電気だけで走行するため、航続距離を伸ばすうえでは電力を無駄にしない仕組みが求められる。

充電時間の短縮もEVの普及に向けた課題としてかねて注視されてきた。その点、SiCパワー半導体は従来のシリコン製のものと比べて電流のオンオフ時のスピードが速く、スイッチングによる電力ロスを減らせる。そのため省エネ性能が高い。

また、耐熱性や耐電圧性に優れているため、急速充電にも対応可能だ。このような数々のメリットから、17年にモデル3を発売したテスラやBYDなどEV専業メーカーが先行して採用した。

欧米勢などEVシフトを進める既存の自動車メーカーも24年以降に発売されるEVへの搭載を次々と予定している。

現在ネックとなっているのがその価格の高さだ。

数倍にまで跳ね上がる価格

当然種類にもよるものの、特定のパワー半導体部材をシリコンからSiCに置き換えた場合、価格は約2~3倍ほどに上昇すると考えられている。原料となるSiCインゴットは、精製に時間がかかることもその要因の一つだ。シリコンだとメートル単位で精製できるインドッドに対して、SiCでは長くて10センチ程度。さらに加工難易度も高い。

これらの要因からSiCは高コストになりがちだが、EVへの搭載が進めば量産化効果で価格低化が起こるのは時間の問題とみる向きもある。

世界最大の自動車部品メーカーであるボッシュはSiCパワー半導体を取り入れた製品を戦略的に開発し、半導体の自社製造も行っている。

日本勢、欧米勢に設備投資で遅れか

肝心の日本勢はどのような動きを取るか。三菱電機東芝、富士電機、ロームなど、パワー半導体は比較的日本勢のシェアが高い分野と認識されてきた。

しかし、現在ではSiC分野への投資で先行しているのは欧米勢だ。

世界シェア約40%を誇る領域首位のスイス・STマイクロエレクトロニクスは、イタリア・カターニャのエ場建設に伊政府からの補助金付きで7.3億ユーロを投じた。中国企業との合弁生産会社に32億ドルを投じることも発表している。

2位の米ウルフスピードは世界中で65億ドルの投資を行うと発表した。同社が製造するSiCウェハーの長期供給契約を結んだルネサスエレクトロニクスから20億ドルの預託金提供を受けて投資に充てるなど、赤字が続く中でも積極的な投資姿勢を一貫している。

3位の独インフィニオン・テクノロジーズもマレーシアの工場に最大70億ユーロの投資を表明。背景には約50億ユーロの新規案件獲得がある。

世界シェア5位のロームは、現在は世界シェア4%弱ではあるものの「25年度以降の世界シェア30%以上」を目標に掲げている。2021年度から2027年度の7年間でSiC関連に5100億円もの投資を計画。2030年度にSiCパワー半導体の製造能力を2021年度比で35倍に引き上げることを目指す。

欧米の上位層と互角の積極姿勢を見せている。

政府も巻き込んで次世代パワー半導体の覇権を握るための投資合戦が各国で加速している中、日本のパワー半導体大手の一社、三菱電機はSiC関連で1000億円を投じて熊本に新工場を建設。富士電機も生産能力の増強を図った。

しかしながら欧米勢に匹敵する投資額を発表している企業は未だない。

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