日本精機、凹面鏡生産工場を新設。車載HUD部品増産に向け

HUDは、表示装置で生成した速度表示やルート案内などの画像を光学部品とフロントウィンドウで拡大、反射させることで、ドライバーの視線の先に表示するデバイス。HUDによりドライバーは、フロントガラスの先に投影される虚像の運転情報を、下を向いて視線を道路から切ることなく、前方だけを見ながら認識することができ、ドライバーの運転負荷の軽減に寄与する。

HUDにおける「凹面鏡」は、表示装置からの表示像を拡大するために用いられる凹面形状の鏡。凹面鏡の素材には樹脂が採用されており、樹脂はガラスに比べて温度変化や成形で生じる応力などによる形状変形が発生しやすく、HUDの光学性能に与える影響が大きいため、高精度な形状を作製するためには高い技術力が必要とされる。

歪みのない鮮明な画像を表示させるためには、光学設計技術だけでなく、凹面鏡の精密さが不可欠となる。同社では、凹面鏡を製品設計から金型設計、加工、成形、ミラー成膜までを、一貫した加工工程により内製化を行うことで、高精度・高品質の表示画像を目指している。

今回完成した蔵王工場は、既に生産を終了した液晶（LCD）ディスプレイ事業のディスプレイ製造工場跡を改修して、凹面鏡製造工場に作り替えたもの。工場躯体部分は、極力再利用することによって無駄な投資抑制を図りながら、生産性向上・品質向上（クリーン度強化）・省エネ・再エネを意識した生産能力拡大を企図した。

生産性は、凹面鏡製造におけるミラー成膜工程の生産性を従来と比べ15％アップし、検査工程でのカメラ動作を改善することで検査時間を短縮した。

品質向上については、成膜（1F）から検査（2F）までの工程を垂直搬送機で直結することで、異物混入対策やマテハン（マテリアルハンドリング）を改善した。

省エネ･再エネについては、成形シリンダー部の保温対策により消費電力を削減するほか、屋上屋根にソーラーパネル敷設し太陽光発電を導入することを計画している。

現在は、工場のリノベーションが完了し、成形機、成膜機が搬入設置されている。今後は、そのほかの設備を設置し、凹面鏡生産に向けた準備を進めながら、欧州のカーメーカーなどの監査を受けたうえで、秋ごろの量産開始を目指している。

HUD事業を取り巻く市場環境は、高い市場成長性が見込まれており、同社では収益化期待が高い事業と位置付けている。現在、同社のHUD世界シェアは世界第１位の30％を占めており、2030年にHUD売上1,000億円の達成を目指し、成長投資として約150億～200億円を投入することを「新中期経営計画2026」で公表している。同工場への投資は、同計画の内容に沿ったもの。

蔵王工場の概要