カーボンニュートラルには全方位型戦略でアプローチ【メガサプライヤー トップインタビュー②】ボッシュはICEの更なる効率化やクリーンな水素の活用、用途に応じたADASなど幅広いソリューションで対応
自動車業界が「100年に一度の変革期」を迎えたと言われて久しい。この変革においては、ADASや電動化などが大きな軸と言えるだろう。そうしたトレンドの技術開発の一翼を担っているのがサプライヤーだ。
この特集では、グローバルに包括的なシステムを提供している“メガサプライヤー”にインタビュー。自動車産業の今と未来について聞く。第2回はグローバルメガサプライヤーとして世界一の売上を誇るボッシュ。日本法人のボッシュ株式会社、クラウス・メーダー代表取締役社長に聞いた。
BEVへのシフトは続く
--:ICE搭載車両の販売禁止に世界各国が向かっていましたが、昨年あたりから流れが変わってきました。ハイブリッドが見直されている印象も受けますが、BEVの今後についてどうお考えですか?
クラウス・メーダー代表取締役社長(以下、敬称略):BEVの普及は一定のペースで進むというよりも、様々な要因による“波”があると考えています。ドイツにおけるEVの新車登録台数は、補助金の状況によって上下します。日本では、新たに投入されるEVの魅力次第で状況が変わっている印象です。
--:BEVには、まだ不安を感じるユーザーも少なくないと思います。
メーダー:(EVの購入に)消極的になる理由の1つは充電インフラでしょう。走行中のバッテリー切れに不安を感じるユーザーは依然として多いと思います。電気自動車の残存価値がもう1つの理由だと思います。中古車になった時の買取り価格に不安を感じる方も少なくないと思います。
3点目として、ほとんどのBEVが高価なことも理由でしょう。航続距離を伸ばすために重量のあるバッテリーを多く搭載する必要があります。必然的にSUVなどサイズが大きく高価なモデルが多くなり、エンジン搭載車やハイブリッド車に比べると価格的に不利なのも要因だと思います。
--:そういった不利な条件はありつつも、これまで順調に台数は増えてきたと思いますが…。
メーダー:お客さまも、それぞれ考え方が違うでしょう。(マーケティング用語で)「アーリーアダプター」と呼びますが、新しい物をいち早く取り入れる方や、状況を見ながら追従する「フォロワー」といった層は一定数存在します。一方で、慎重に待つ方々もいらっしゃいますね。
--:「新しい物好き」のユーザーには一通り行き渡った状況、つまり「踊り場」に差し掛かったということでしょうか?
メーダー:クルマに限らずどんな商品にも当てはまりますが「来年はもっと良いモデルが出るだろう」という期待があります。EVで言えば「充電時間が半分になるかもしれない」とか「もっと長い航続距離が実現されるんじゃないか」など「来年まで待ってみよう」という人たちもいるでしょう。
--:一時期のような“BEV一辺倒”のような風潮は、欧州や北米では一段落した印象ですね。
メーダー:確かにICEの使用禁止を緩めようとする動きはありますね。イギリスでは、スナク首相がICEの禁止目標を(それまでの2030年から)5年、後ろ倒しにしました。アメリカも最近、2030年までに(新車販売の)3分の2をBEVにするという計画を、2032年までに3分の1というものに修正しました。EUも2035年までのICE禁止という議論を始めていますが、これについては2026年に再検討することになりました。
こうした傾向はありますが、全体的には将来に向けてクルマのBEV化は進んでいくでしょう。
包括的に考える環境対策:自然に優しいICEとクリーンな水素
--:そうした環境下、ボッシュのパワートレーンに関する戦略はどのようなものですか?
メーダー:“Aggressive”と“Evolution”という2つのシナリオを基に事業を計画しています。アグレッシブ(積極的な)シナリオでは、各国の法整備などの影響でEV化がどんどん加速して行くという前提です。エボリューション(進化)シナリオは、そうした(EV普及に有利な)要素は働かず自然にEV化が進行していくというケースです。いずれにしても、2035年における世界のBEVシェアは、48~63%の間と予測しています。
--:やはり、BEVを中心に据えた事業戦略ですね?
メーダー:いえ、2つのシナリオにおいても、パワートレーンの半分もしくは3分の1はハイブリッドを含めたICEだというのも非常に大切です。マイルドハイブリッドからストロングハイブリッド、純粋なICEなど様々な仕様が考えられます。ICE向けのビジネスも、これらのシナリオには織り込まれています。
--:確かに現在は過渡期なわけで、ICE、ハイブリッド、BEVそれぞれが必要ですね。
メーダー: ICEのアプリケーションが、かなり長期にわたって使い続けられるケースもあると思います。例えば(充電)インフラの整備が難しい遠隔地や、建設用の重機などには間違いなくICEが必要です。したがって、ICEを今よりも効率化して、もっとクリーンにするために開発を続けることも重要です。合成燃料や水素を燃料に使ってICEを動かすことも盛んに議論されています。