モーターにCVT変速は必要なのか:東海大学・木村英樹教授に訊く
モーター側からみてシームレス変速を行なうCVTの適用は魅力があるのだろうか。電気+クルマの権威である、東海大学・木村英樹教授に伺った。
TEXT:木村英樹(Hideki KIMURA:東海大学工学部 電気工学科 教授)
目次
Q.1
高速回転時の効率、およびトルクの低下や、駆動バッテリーの性能向上の頭打ちによるモーターの小型化などの理由により、サプライヤーを中心に変速機構の提案が増えています。モーターのエキスパートである木村先生からみて、そもそも「変速が欲しい、必要だ」と思われますか?
A.変速機は段数が少なくてもよいので欲しい。ただし、システム全体の効率を下げないのが大前提だろう
まず誘導モーターと永久磁石(PM)モーターで変わってきます。300km/hの速度を出す新幹線をはじめとする多くの鉄道や、テスラ(モデル3のリヤを除く)で使用されている誘導モーターでは、減速機が使われるものの変速機は用いられていません。
誘導モーターではVVVF(可変電圧可変周波数)制御が事実上、電気的に変速機の機能をカバーできています。EVでは主流となっているPMモーターでは、高速になるとトルクが得られにくくなる特性があるため、高速域を伸ばす場合には、減速比を小さくするセッティングが必要となります。
しかしながら、それとは引き換えに低速域での加速や登坂能力が落ちやすくなります。そのぶんを補おうとすると、今度は大きなトルクを発生するためにモーターが大型化します。低速から大きなトルクが得られるモーターとはいえ限度があります。イメージ的には、たとえばMTの4速ギヤひとつだけでは低速側が苦しくなり、2速ギヤだけだと高速側に対応できないような感じです。
このような理由から、モーター開発サイドとしても本音でいうと、変速機は段数が少なくてもよいので欲しいと思うことがあります。とくに、ポルシェ・タイカンは最高速度が250km/hを超える高速車ですので、さすがに変速ギヤがないと加速性能とスピードの両立が難しかったと思われ、最小限となる2段変速を採用したのだと思います。