開く
FEATURES

水陸両用自動車の試み、古今東西

公開日:
更新日:
水陸両用自動車の試み、古今東西

水陸両用車はまず、軍事目的で実用化された。戦後に民間へ払い下げられてレジャービークルとなったのが一般的な成り立ちだ。
TEXT:古庄速人(Hayato FURUSHO:Car Styling)

水陸両用車はまず、第二次世界大戦下のドイツとアメリカで実用化され、戦場で大いに活躍した。特にGMが開発したDUKWは第二次大戦後も、世界各地の紛争で活動を続けた。損壊を免れた余剰車両は民間に払い下げられ、現在でも観光用途で運用されているものもある。個人所有の水陸両用車としては1961年に発売されたドイツのアンフィカーなどがある。アンフィカー以後長らく量産乗用車としての水陸両用モデルは存在しなかったが、2003年にギブス社が民生用の商品を発表。また近年では、クリーンさをアピールするために水との親和性を強調するコンセプトカーも登場している。

多目的小型車・キューベルワーゲンをベースに渡河能力を付加したシュビムワーゲンは、1942年からドイツ軍に配備が開始され、約15000台が製造された。水密性を上げるためにドアは廃止され、キャビンが完全なバスタブ型になっている。1.1LのVW製水平対向4気筒エンジンをリヤに搭載。スクリュー用の出力軸がボディ後部にあり、跳ね上げられていたスクリューを降ろしてボディに密着させることで回転が伝わる構造を持つ。
(PHOTO:Volkswagen)
アメリカ軍は当初、民間企業の有志から提案された3軸トラック、DUKWの価値を認めることができなかった。しかし沿岸警備隊でのデモ走行で性能が認められ採用が決定。GMで製造されたDUKWはイギリスや太平洋戦線に投入され、上陸作戦などでの兵員や物資の輸送に活用された。GMC製4.4L直6エンジンは陸上で80km/h、水上で10km/hのスピードを確保。約21150台が製造された。第二次大戦後は朝鮮戦争やインドシナ紛争に投入されたほか、払い下げられた車両は全米各地の沿岸警備隊や消防隊で使用された。またアメリカとイギリスでは観光用水陸両用バスに改造されたDUKWもあり、現在でも運用されている。
(PHOTO:USCG)
日本がバブル経済に沸き、マリンレジャーが普及の兆を見せていた1991年、いすゞは東京モーターショーにコンセプトカー・ナギサを出展。そのデザインは乗用車よりもボートに近く「陸上を走れるボート」といった雰囲気。陸上では100km/h、水上では20ノット(約37km/h)というのが想定スペック。水中での抵抗を減らすために、前輪前方が球状船首形状にされている。
(PHOTO:Car Styling)
イギリスのギブス・テクノロジー社が開発したアクアダは、2003年に発表され、実質的にアンフィカー以来の量産水陸両用乗用車となった。陸上で160km/h、水上で26ノット(約50km/h)という高速性能が最大の売り物で、アクアダ最初のオーナーとなったリチャード・ブランソンは2004年にドーバー海峡を1時間40分で横断。それまでの6時間という水陸両用車の記録を大幅に更新している。
(PHOTO:GIBBS)
アクアダに続くギブス社の第二弾商品が、2006年に発売された5人乗りSUV、ハムディンガ。全長5.4mという巨体だが、350hpエンジンと高性能なウォータージェット推進装置のおかげで陸上160km/h、水上ではなんと64km/hを達成。アクアダ同様に水上ではタイヤを上方に跳ね上げ、水の抵抗を受けない仕組みを持つ。これはダブルウィッシュボーンのダンパーを伸縮させ、タイヤを上下させるシステムだ。
(PHOTO:GIBBS)
EVのゼロ・エミッションをアピールするには......という課題に対し、リンスピード社が2008年に見せた回答・スキューバは「潜水艇にする」というもの。原子力以外の通常動力型潜水艦が水中では電力で航行すること、そして「007・私を愛したスパイ」の公開から30年ということで、ロータス車をベースにしたEVを製作。映画ではエスプリが潜水艇となったが、スキューバはエリーゼがベースで、オープントップのまま。キャビンを密閉すると浮力が発生してしまい、うまく潜水できないのだとか。
(PHOTO:RINSPEED)
リンスピードはスキューバ以前にも、水陸両用のショーカーを製作している。2004年公開のスプラッシュは、水上でも高速度を実現するために水中翼を採用。前翼はボディサイドに折りたたんで収納され、後翼はリヤウイングを180度反転させたもの。エンジンはウェーバー社のPWC用750cc2気筒ターボ、しかもCNG仕様に改造されたものながら、車体が浮上すると50ノット(約92km/h)ものスピードで航行できる。路上でも最高速は200km/hに達し、環境に配慮したエコ・スポーツカーの可能性を実証した。
(PHOTO:RINSPEED)
著者
Motor Fan illustrated

「テクノロジーがわかると、クルマはもっと面白い」
自動車の技術を写真や図版で紹介する、世界でも稀有でユニークな誌面を展開しています。
http://motorfan-i.com/

PICK UP