開く
TECHNOLOGY

電磁鋼板がxEVの性能を決める:ケイ素含有の「極めて特殊」な鋼材[日本製鉄]

公開日:
更新日:
電磁鋼板がxEVの性能を決める:ケイ素含有の「極めて特殊」な鋼材[日本製鉄]
(ILLUST:熊谷敏直)

車両駆動用の電気モーターには無方向性電磁鋼板が使われている。結晶の並び方を人為的に制御する技術が、この不思議な鋼板を造りあげた。

世界中で車両の電動化(エレクトリフィケーション)が進んでいる。BEV(バッテリー電気自動車)、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、そしてFCEV(燃料電池電気自動車)。これらはxEV(何らかの電動駆動系を持つ車両)と呼ばれ、性能向上への技術開発で各社がしのぎを削っている。

xEVに使われる電気モーターは、非常に高性能である。小型高出力で瞬発力に優れ、ドライバーの運転操作に応じて回転数がめまぐるしく変化するなかで高い効率による運転が可能だ。電車や家電製品、定置型工業用などのモーターは急激な回転変動にさらされない。ほぼ一定回転で使われる。いっぽう、自動車のパワーユニットとなるモーターは、つねに回転変動し磁力も変化するという特殊な条件下で使われる。そのモーターの性能を左右するのが電磁鋼板である。

電磁鋼板(Electrical Steel Sheet)とは、その名のとおり「電気を流して強い磁力を得るための鋼板」であり、一般的な鋼板とは比較にならない強力な磁力を得られるよう成分と製法が工夫された素材だ。その電磁鋼板を大別すると2種類になる。「方向性電磁鋼板」と「無方向性電磁鋼板」だ。ここでいう「方向性」とは、磁力(磁気モーメント)の方向である。

電気製品に使われる変圧器(トランスフォーマー)や変電所の変圧器には、ある特定の方向に磁化しやすいように結晶の向きをそろえた方向性電磁鋼板が使われる。いっぽう電気モーターには、どの方向にも磁化しやすいような結晶の並びをした無方向性電磁鋼板が使われる。

結晶の向きをそろえるという製造方法を模式化した図。結晶面はそろっているが、どの方向からの磁化でも受け入れるよう、結晶の向きはランダムになっている。この結晶制御技術は新日鉄時代のオリジナル技術である。
著者
牧野 茂雄
テクニカルライター

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産業界を取材してきた。中国やシンガポールなどの海外媒体にも寄稿。オーディオ誌「ステレオ時代」主筆としてオーディオ・音楽関係の執筆にも携わる。

PICK UP