つばきパーキングロックシステムは、既存システムの牙城を崩せるか? - 椿本チエイン|人とくるまのテクノロジー展 2024
「長く姿かたちが変わらないものは完成されている証拠」といわれることが多い。だが、そこにあえてメスを入れる勇者は決して多くない。自動車の機構にも同じようなものがある。その一つがパーキングロックシステムだ。株式会社椿本チエイン(以下 椿本チエイン)では、それまでの固定観念を覆す新パーキングロックシステムを展示。その詳細を技術部 小林 将大氏に聞いた。
TEXT:久保田 幹也(Mikiya Kubota)
PHOTO:村上 弥生(Yayoi Murakami)
主催:公益社団法人自動車技術会
確保された安全性への挑戦
まず目についたのは、そのコンパクトな機構である。元整備士の筆者からすれば「非常に面白い」の一言。今まで目にしてきたパーキングロックシステムとは比べものにならないほど小さく、そして単純そうな見た目をしていたからだ。
「既存のパーキングロックシステムは、安全に関わるところなだけに、焼き直しで今まで来たようです。だから、見直そうと思う人がいなかったのではないでしょうか。」(小林氏)
とくに、日本は高低差が多い地形をしており、パーキングロックシステムは重要な機構である。すでに安全性を担保できている機構があるのなら、わざわざそれを変更する必要はない。大多数のメーカーの意見はこんなものだろう。
だが、椿本チエインは違った。あえて固定観念、もっといえば技術者の常識となっていたパーキングロックシステムにメスを入れたのである。その結果生まれたのが「つばきパーキングロックシステム」だ。
部品数はわずか3個!組み立て工数やコスト低減にも直結
その機構は非常に単純。パーキングロッククラッチと、それをつなぐパーキングロット、そしてアクチュエーターのみ。アクチュエーターは種類を問わないため、最小2つのアッセンブリーで成立するのがつばきパーキングロックシステムだ。
「社内装置を用いた実験や、評価会社の結果で安全性については問題ないことがわかっています。」(小林氏)
今回の改良により、既存のパーキングロックシステムよりも専有面積を25%縮小した。また、部品数が減ったため組み立て工数も削減できたほか、加工コストも75%低減させている。今まで誰も手を加えなかった部分にあえて手を加えたことで、思いもよらない成果につながっている。
小型クラッチユニットの改良で小型化を実現
つばきパーキングロックシステムは、仕組み全体を単純化しただけではない。小型クラッチユニットに従来のパーキングロックの機能を持たせた結果、小型化に成功したのである。
例えばパーキングギアを止める役割をしているパーキングポール。ギアのくぼみとポールの凸部分をうまく嚙合わせるためには、ポールを持ち上げる必要がある。その結果、Pレンジから開放することでガタツキを感じることもあった。
それをパーキングロッククラッチで改良を加えた。具体的にはパーキングポールの代わりにローラを採用し、それを外輪と内輪で挟んだ。また、ボールの入るくぼみを面取りしている。このような工夫を凝らした結果、ロックモードからの発信をスムーズに出来たのはもちろん、誤動作の防止にもつながった。
見かけの単純さ以上に複雑な設計が採用されているつばきパーキングロックシステム。だが、これが普及するには少々時間がかかりそうだ。
従来品の牙城、崩すには評価が求められる
「既存のパーキングロックシステムの構造が複雑であることは、技術者の多くが気が付いてはいるようです。」(小林氏)
気が付いているのであれば、つばきパーキングロックシステムがもっと受け入れられてもいいと筆者は思った。だが、一方で次のような意見もあるという。
「機構が複雑なだけに、技術者が触りたがらないという側面もあるようです。また、安全性も証明されているだけに、あえて新商品を試すのも考えものとする意見もあると聞いています。」(小林氏)
そもそもつばきパーキングロックシステムは、構想自体は数年前からあったものの、かたちになったのは1~2年の話。得意先には話をしているそうだが、なかなか既存の牙城を崩すチャンスが見つからないという。
「今後も社外の評価会社とやり取りをして、評価を積み重ねていけば普及するのではないかと思っています。メーカーが気にしているのは安全性なので、特にそこに対する評価がもっと増えれば、こちらも勧めやすい商品になるでしょう。」(小林氏)
一見単純そうな見た目の、でもそれまでの常識を覆したつばきパーキングロックシステム。今後の評価が高まれば、実用化される日もそう遠くないのかもしれない。