ディーゼルエンジンを水素エンジンに改造。アネブル世界初の独自技術「水素噴流噴射コンセプト」とは|人とくるまのテクノロジー展 2024
愛知県に本社を置く株式会社アネブルは、2024年5月22日(水)からパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」にブースを出展。世界初の独自技術「水素噴流噴射コンセプト」を搭載した「水素エンジンモデル」を展示した。この技術は既存市販車に搭載したディーゼルエンジンを水素エンジンに改造し、脱炭素化を実現するもの。国が推進する脱炭素化にも大きく貢献する取り組みだ。技術本部フェローの武田啓壮氏、碧南センター長の野村尚志氏に、技術の特徴と今後の展望をうかがった。
TEXT&PHOTO:石原 健児(Kenji Ishihara)
主催:公益社団法人自動車技術会
目次
ディーゼルエンジンの燃焼バルブをガソリン用から水素タイプへチェンジ
株式会社アネブル(以下:アネブル)のブースを覗くと、燃焼バルブがあらわになった銀色に輝くエンジンが目に入った。展示担当者に聞くとディーゼルエンジンを水素エンジンに改変する独自の技術だという。今回話をうかがったのは、技術本部フェローを務める武田啓壮氏。大手メーカーで開発担当も務めた経歴を持つ。
今回、武田氏は国内大手自動車メーカー協力のもと、エンジンと燃焼データの提供を受け、ディーゼルエンジン車の水素化を実現した。具体的には、ディーゼルエンジンの軽油を噴射するコモンレールとインジェクターを取り外し、水素ガスを噴射するインジェクターを取り付ける。展示していたエンジンは4気筒タイプ。1気筒当たり4カ所のインジェクターがあり、16カ所を交換した。
ディーゼルから水素への改変で燃費はどうなるのだろうか?「開発当初、水素タンク満充電で300kmの走行距離を想定していたのですが、蓋を開けると数値が大幅に伸び、最終的に500~600kmを実現する見込みです。」と野村氏。エンジン出力も、ディーゼルエンジンとほぼ同等であるという。
水素エンジンの課題「バックファイアー」を克服
水素エンジンの開発は数十年もの長い間行われてきた。課題の一つが「バックファイアー」現象。バックファイアーとは、燃焼室以外の吸気ポートに残留した水素ガスが燃焼すること。燃焼室以外での燃焼は出力ロスに繋がる。「吸気ポート内の水素濃度がわずか4%でもバックファイアーが起こります」(武田氏)。
アネブルでは、水素を高速で噴射しつつ吸気工程でも水素を供給することで吸気ポート内に水素が残らないように工夫した。これまでは出力の3割がバックファイアーで損失していたが、アネブルの新技術では出力の損失を1割程度に抑えることができた。
「バックファイアーを抑えるためには吸気ポートの残留水素を残さないように水素ガスの噴射を調節しなくてはなりません。開発時に苦労したのは、限られたエンジンスペース内で、いかにバックファイアーの発生を抑えられるか。どのように水素インジェクターをレイアウトするのか、という点でした」(野村氏)。
アネブルは東京都市大学と連携し、燃焼状況を計測。2023年、トラックによる公道での実証走行実験を完了し、世界初となる技術を完成させた。技術の発案から実証実験まで、わずか3年ほどで実現したという。
水素エンジン導入のコストを大幅に削減
「水素噴流噴射コンセプト」技術の大きな特徴はコストの大幅な削減だ。大型トラックのEV車の導入には、約1億円ほどのコストがかかる。しかし、既存車両のエンジンを改変するのであれば、かかる費用は数百万円ほどだ。中小企業には大きなメリットといえるだろう。
また、短期間でエンジンの改変が可能なところもメリットの一つだ。「噴霧データとエンジンがあれば、1か月程度です」と武田氏。現在アネブルでは国内での技術普及をめざし「水素ガスエンジン供給系・噴射系開発サービス」の提供を始めている。
対象はディーゼルエンジン全般、ガソリンエンジンの水素化も視野に入れる
国では2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2030年度の温室効ガス46%削減をめざしている。「その流れを強めるためには、EVの普及以外にも市販車の脱炭素化が鍵の一つになると考えたんです」と武田氏は語る。
アネブルは、世界初の独自技術である「水素噴流噴射コンセプト」を環境省の令和3年度委託事業「水素内燃機関活用による重量車等脱炭素化実証事業」の「既販中型重量車の水素エンジン化事業性検証プロジェクト」に提供する。今後は国内自動車メーカーからエンジンや技術データの提供を受け、トラックやバン、建設機械など幅広い車種の既存ディーゼルエンジンの水素化技術確立をめざす。
「最終的には船舶のディーゼルエンジンや自動車のガソリンエンジンの水素化も視野にいれています」と武田氏は今後の展望を語った。脱炭素化社会実現にアネブルの技術が果たす未来に期待したい。