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愛知製鋼:自動運転の位置検出精度±5mmを実現する磁気マーカーシステム「GMPS」とは何か|人とくるまのテクノロジー展2024

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愛知製鋼:自動運転の位置検出精度±5mmを実現する磁気マーカーシステム「GMPS」とは何か|人とくるまのテクノロジー展2024

愛知製鋼は、インフラ補助型自動運転アシストシステム「GMPS(Global Magnetic Positioning System)」を発表した。GMPSは、磁気マーカーによる位置検知技術を活用して自動運転を補助する。未来のモビリティ社会を実現するための重要なカギとなる技術についてGMPS開発室 室長 安藤孝幸氏に話を伺った。

TEXT:庭野 ほたる(Hotaru Niwano)
PHOTO:村上 弥生(Yayoi Murakami)
主催:公益社団法人自動車技術会

誤差は±5mm以下、磁気マーカーによる高精度の位置検知

展示されている磁気マーカーは、埋設タイプ(30φ×20mm)と貼付(表面設置)タイプ(60φ×1mm、100φ×2mm)の3種
展示されている磁気マーカーは、埋設タイプ(30φ×20mm)と貼付(表面設置)タイプ(60φ×1mm、100φ×2mm)の3種
磁気マーカー埋設タイプ(30φ×20mm)
磁気マーカー貼付(表面設置)タイプ(60φ×1mm)
磁気マーカー貼付(表面設置)タイプ(60φ×1mm)

愛知製鋼が展示する「GMPS(グローバルマグネティックポジショニングシステム)」は、自動運転車両の正確な位置検出を実現するためのシステムである。このシステムは、道路に設置した磁気マーカーと車両に搭載されたセンサーを組み合わせて動作する。

埋設タイプは、磁気マーカーを公道に直接埋め込む
貼付(表面設置タイプ)は、磁気マーカーを両面テープで貼り付ける

微弱な磁気信号を発する磁気マーカーを、道路上に一定間隔(一般的には10m間隔)で設置。超高感度磁気センサ「MIセンサ」を搭載した車両がその上を通過する際に、自車位置をミリ単位で検出する仕組みだ。これにより、車両の位置を高精度で推定することが可能。また、車両側に取り付けるセンサーは500gほどと軽量であり、車両の性能に影響を与えない設計となっている。

「GMPSは、GPSやカメラに依存せず、どんな状況でも正確な位置情報を検出できます。例えば、GPSの届かないトンネルや地下、光学デバイスが苦手な雪や水の中でも自動運転が可能です」と安藤氏は説明する。

位置検出精度は±5mm以内という高精度

GMPSの最大の特徴は、その高精度な位置検出能力にある。愛知製鋼の先進材料である「アモルファスワイヤ」を応用して生まれた超高感度磁気センサ「MIセンサ」は、1m離れたところでも磁場を検出できるポテンシャルを有する。さらに、±5mm以内の位置検出精度であるというから驚きだ。これは、従来のGPSやカメラを用いたシステムよりも圧倒的に高い精度である。

安藤氏は「従来のシステムでは、どうしても10mmから20mmの誤差が生じました。しかし、GMPSは5mm以下の精度を誇ります。この精度こそが、自動運転の安全性を大幅に向上させます」と語る。

磁気誘導+αで未来のモビリティ社会を実現したい

従来のセンサーと比べ100倍の感度を持つ新しいセンサーを使用

GMPSに使用される磁気センサーは、従来のセンサーに比べて100倍の感度を持つという。これにより、弱い磁力でも高精度に位置を検出することができるようになった。

「高感度のセンサーを使用することで、非常に弱い磁力でも正確な位置検出が可能です。弱い磁力を検出できるセンサーの開発は非常に重要でした。磁力が強いと何かと問題が生じます。たとえば、道路に設置した磁石に空き缶がくっついてしまうということも起こりうる訳です」と安藤氏は説明する。

また、GMPSには、磁気誘導方式の主流である磁気テープには無い強みがある工場や倉庫のAGV(無人搬送車)に使用される磁気テープは、貼られた通りの経路しか辿ることができず、カーブや複雑なルートに対応するには限界がある。一方、GMPSは磁気マーカーを一定間隔に設置するだけで、自律走行が可能となり、カーブや複雑なルートにも柔軟に対応できる。

「磁気テープは時速3.6キロまでの速度しか対応できませんが、GMPSは60キロまで対応可能です。この点でも磁気テープとは大きな差別化が図れます」と安藤氏は述べている。

「従来の技術である磁気テープやLiDAR(ライダー)と組み合わせることで、さらなる性能向上が期待できる。GMPSで高精度の自動運転を実現したい」と続けた。

実用化に向けて、着実に実績を積み重ねる愛知製鋼

バス専用道で自動運転を実現

愛知製鋼は、GMPSの実用化に向けた取り組みを積極的に進めている。JR東日本の気仙沼線BRT(Bus Rapid Transit)では、2022年からバス運行にGMPSを導入し、専用道で自動運転を実現している。また、工場内での牽引車や空港の連絡橋など、様々な環境での実証実験も行われている。

「気仙沼線BRTでは、既に実運行で使用されており、1日1往復の自動運転を行い実験を重ねています。GMPSの技術は、工場内の牽引車や市街地での自動運転においても有効です。今後は、さらに多くの環境で実用化を進めていきます」と安藤氏は語った。

GMPSの開発においては、従来のシステムと比較してコストを大幅に低減したという。磁気マーカーのコストは1/10に、センサーのコストも従来のシステムに比べて大幅に下げた。これにより、普及しやすくなり、多くの環境での導入が期待される。

「コストが1/10に低減されたことで、GMPSの普及が非常に現実的になりました」と安藤氏は語る。

愛知製鋼のGMPS技術は、高精度な位置検出を可能にする革新的な自動運転支援システムだ。この技術は、どんな環境でも正確な位置情報を提供し、自動運転の安全性を大幅に向上させる。

今後の実用化と普及が期待される技術であり、持続可能な未来のモビリティ社会に大きく貢献することが期待されるだろう。

著者
庭野ほたる

愛知在住のライター。サービス業、営業職を経て、なぜか自動車・航空機の開発設計に携わることに。これまでに自動車の内装製品や、航空機の構造部品の設計を15年以上手がける。樹脂設計には10年以上関わっており、「ヒケ」という言葉を聞くと心拍数がちょっとだけ上がる。今はさまざまな生成AI(文章、画像、動画、音楽)にハマリ中。

人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA

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