内燃機関なきEV特有の「冷媒問題」。ダイキンはどう立ち向かうか?|人とくるまのテクノロジー展 2024
エアコン業界の雄、ダイキン工業は、今回の展示会でEV(電気自動車)に対応した冷媒を展示している。ガソリン車のように排熱が使えないため、冷暖房兼用で使えるものが求められている中、「新開発というより掘り起こしたに近い」と担当者が語る「R-474A」について話を聞いた。
TEXT:久保田 幹也(Mikiya Kubota)
PHOTO:平木昌宏(Masahiro Hiraki)
主催:公益社団法人自動車技術会
EV特有の「冷媒問題」とは
ダイキン工業は、今回の開発で初めて自動車用冷媒の製造に乗り出した。それもEV専用のものである。ダイキン工業がEV専用の自動車用冷媒開発に着手した背景にはガソリン車との違いがある。
従来のガソリン車であれば、冷房に利用する冷媒ガスがあれば問題ない。暖房に利用する温風は、燃焼によって発生する排熱を利用するためだ。ところがEVはそうはいかない。内燃機関が存在しないため、排熱そのものがほとんどないのである。
「そこで冷暖房兼用で利用できるものを開発することになりました」と化学事業部のチームリーダー主任は語る。「EVは電気ヒーターのようなものを介して、冷媒を温めなければなりません。しかし、その際に電気の消費量が大きいと、EVの駆動時間が短くなってしまいます」という話のとおり、動力以外での電力消費量は何とか抑えたいところだ。
圧力(Saturated Pressure Past)と温度(Tempreture)の関係を冷媒の種類ごとに示した図(展示資料より引用)
そこで同社が開発したのがR-474Aである。アメリカのメーカーが開発したR-1234yfを改良したものだが、ただ単にアレンジを加えただけではない。
コンプレッサーの回転数は半減、でも出力は同じ
EVにおいて動力以外で消費電力を抑えるには、使用する物質や機器の改良が必須となる。ダイキン工業が開発したR-474Aは、担当者曰く「コンプレッサーの小型が実現できる」という。
「AI・MI(マテリアル・インフォマティクス)の活用で実現できました」としており、グラフ上では既存の冷媒ガス圧縮にかかるコンプレッサーの回転数を約60%に抑えられるとしている。「言い換えればコンプレッサーを小型化しても、従来と同じエアコンの機能が使えることになります」とのこと。実現すれば、間違いなくEVの技術開発に貢献するだろう。
地球温暖化係数(GWP)も従来品を下回り、環境性能も向上
地球温暖化にどの程度の影響を及ぼすのかを数値化した国際基準に「地球温暖化係数(以下 GWP)」がある。二酸化炭素を1として、数値が高いほど地球温暖化を促進させやすいとしている。
この係数が、ダイキン工業が開発したR-474Aは3となっており、ベースとなったR-1234yfよりも1低い。GWPにおける1の違いは非常に大きいとされており、消費電力の低減とあわせて環境性能も高めている点は注目に値する。
安全性はそのままを維持
一方で変わっていない指標もある。それがASHRAE SegmentがA2L冷媒である点だ。A2L冷媒とは、微燃性のあるガスであり、適切に取り扱えば危険性は少ないとされている。ガス中に含まれるHFO(ハイドロフルオロオレフィン)とその混合物が0.0053%以下とR-1234yfと同程度であるため、セグメントが同じなのである。
それでも「安全性を従来品から維持できたのは大きいですね」と担当者は語る。「機能性と安全性は、ある意味トレードオフの関係にあります。そういう意味では安全性を維持できたのは大きいと思います。」
どうしても冷媒としての性能を求めると、ASHRAE Segmnetの値は大きくなってしまう。その数字を従来品と同等レベルに抑えられた功績は、今後のEV市場拡大に大きく貢献するであろう。
2022年ごろから情報をリリースしていたダイキン工業が、今回の展示会で出展を決断した。「新開発商品というよりは、既存のものを掘り起こした結果見つけた」と語るR-474Aは、世界のEV市場で導入される日もありえない話ではないだろう。
2026年の量産化が実現するころには、カーエアコン市場もダイキン工業が手中に収めているかもしれない。