アメリカのEV市場低迷、サプライチェーン構築に踏み切ることで中国依存からの脱却なるか
アメリカ、バイデン政権は新車販売のうち普通乗用車に占めるEVの比率を2032年までに67%とするとしていた。しかし、その数値目標を35%まで下方修正した。各国で暗雲立ち込めるEV販売減速の流れを受け、当初案のようなペースでEVシフトを進めるのは困難との判断に至ったようだ。
調査会社マークラインズによると、2022年7〜9月のアメリカにおけるEVの販売台数は20万8,000台と前年同期比で70%以上も増加していたが、翌年2023年7~9月は同49.5%増、10~12月期は同39.9%増まで低下。HEV(ハイブリッド車)は対照的で、それぞれ同80.1%増、同68.2%増と大きく伸長した。EVの普及が鈍化する分、HEVやPHEVを活用してCO2排出量削減に向き合う判断に至るのも無理はない。EVが減速したとはいえ、販売はまだアメリカで前年同期比4割近く伸びているものの、楽観論は大きく後退していると言っていい。
米環境保護局(EPA)は、目標修正に伴って自動車メーカーがHEVを通じて排出量基準を達成できる余地を大きく広げることができる規則を採用した。また、燃費向上のための様々な技術を新たに認めた。EPAのリーガン長官は、新しい枠組みの下でもEPAの当初案と同じような排出量削減が達成され、より積極的なEVへの移行が実現されることを強調した。
また、11月に控える大統領選、その鍵を握るミシガン州などでは厳格な温室効果ガス排出量基準とそれに基づく早急なEV普及の促進に対する反対の声が強いことが影響したとも考えられる。
このような方針が導入された背景としては政治情勢もある。民主党候補指名が確実なバイデン氏、対する共和党候補筆頭のトランプ前大統領双方にとり、勝利のためにはミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアといったいわゆる激戦州を制することが重要だ。このような地域では自動車業界の労働者がEVへの移行で雇用を奪われるとの懸念が広がっており、早急なEV普及の促進に対する反対の声が強いことも事実だ。
EVの普及速度の低下、政治的背景などが複雑に絡み合うアメリカで今何が起きているのか。
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HEVに押されるアメリカEV市場、インフラの遅れ、自動車ローンの金利上昇もEV加速を阻害
イギリスの調査会社JATOによれば、アメリカでは2023年4~6月期以降、3四半期連続でHEVの販売台数がEVを上回った。
2023年10~12月には、トヨタ自動車のアメリカでのHEVの販売台数が前年同期比49%増の約18万台と過去最多となり、20%増の約17万台だったテスラのEVを逆転した。ホンダのHEVも約4倍となり販売台数約8万台と急伸。2023年度アメリカにおけるEVの平均価格は約5万9,000ドルほどであるのに対し、HEVは約4万2,000ドルと30%ほど安く、この差は大きい。アメリカ政府は2023年、EV購入者に最大7,500ドルの税額控除を導入したものの、それでもまだEVの方が割高となる。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが影響し、自動車ローンの金利も上昇していることも大きい。
2022年はじめに5%に満たなかった自動車ローン金利は現在、8%を上回るようになっている。
また、内陸部などで充電インフラの整備が遅れていることも普及の妨げになっている。当初バイデン政権が掲げていた新車販売に占めるEV比率目標を達成するとなると、全米で100万基を優に超える充電器が必要との試算がある。しかしながら足元の数はその1割強にとどまる。