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商用車をターゲットに普及を遂げた中国BaaSモデルの3つの戦略と収益化に向けた2つの課題

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商用車をターゲットに普及を遂げた中国BaaSモデルの3つの戦略と収益化に向けた2つの課題
出典元: StreetVJ / Shutterstock.com

いまや世界最大のEV大国となった中国。

世界をリードする同国における2023年のEV販売台数は約669万台を記録し、自動車販売シェアの約22.2%を占める形となった。

EV大国の中国では政府主導でバス、タクシーからゴミ収集車までEV化を目指し、全国レベルで推進している状況だ。

しかし徹底的なEVシフトに取り組む中国においてさえ、EVの完全普及まではまだ先の話になりそうだ。

そこには「充電時間の長さ」「車載電池の劣化」「電池コストが高額」といった課題点が挙げられる。

まずガソリンの給油と比べて、EVの充電時間は依然として長いことが課題だ。

ガソリンであれば数分で完了できるがEVの場合はそうはいかない。家庭用の普通の充電ケーブルの場合は約6~8時間、急速充電の場合でも80%の充電に30分を要する。

2つ目は車載電池の劣化。

EV車載電池の平均寿命は8年程度と言われており、バスやタクシーのような急速充電が必要とされるEVでは、車載電池の寿命は3~4年程度だ。車載電池が劣化してしまうと当然ながら交換が必要となる。そこで課題となるのが3つ目の電池コスト。交換費は車種によって異なるが、数十万円と高額になりがちだ。

これらの課題を解決するために技術開発が進められているが、中国ではBattery as a Service(BaaS)のビジネスモデルが誕生、成熟しつつある。

BaaSモデルの市場規模は2022年時点で11億4,000万ドル(約1,786億円)と評価され、2030年には53億ドル(約8,304億円)までに成長すると見込まれている。

注目を集めるBaaS市場だが、世界的に見てもやはり中国が大きくリードしている。主にNIO、Aulton、Geelyなどが牽引しており、他の企業も多く参入している状況だ。

そんなBaaS市場を牽引する中国は、普及に向けどのように取り組んできたのか眺めていく。

商用車をターゲットにBaaSモデルを推し進めた中国の3つの戦略

いち早くBaaSモデルを展開した中国は、タクシー、ライドシェア、カーシェア、バス、物流車両などの商用車領域で先行している。

このような商用車領域では、自動車の未稼働時間を極力抑え効率的に業務を遂行したいケースが多い。

例えばタクシーにとっては30分の充電時間による稼働ロスは深刻で、売上に大きく直結してしまう。中国北京市のタクシー総数は6万台を超えているが、そのうち約1万台は電池交換式EVタクシーが導入されている状況だ。北京以外の広東省や浙江省でも、タクシーを中心に電池交換式EVを採用する動きが活発化している。

また、ライドシェア領域においても配車サービスプラットフォームを提供する「曹操出行(CAOCAO)」を中心に、電池交換式EVにシフトする計画だ。

中国では、なぜ商用車を中心にBaaSモデルが先行しているのだろうか。その背景には大きく3つの理由が挙げられる。

まず1つ目は初期投資金額だ。

タクシーの場合、ガソリン車、充電式EV、電池交換式EVの3つの選択肢がある。電池交換式EVの場合は、車の全体価格の1/3を占める電池部分をBaaSでレンタルできるため、初期投資は本来の2/3に抑えることが可能となる。

次に運営コスト。

中国のBaaS運営モデルは走行距離1kmあたりに対して電池の利用料金を課金徴収し、充電池を交換するというのが主流だ。例えば北京汽車の電池交換ステーションの場合、1kmあたりの料金は約6円。ガソリン代の平均はおよそ10円/kmとなっているため、4割安くなる計算だ。

1日平均300kmを走行するタクシーであれば、月に3万6,000円の運営コストダウンにつながるというわけだ。タクシーなどの商用車は稼働率が高いため、電池交換によるコストダウンは月々の収益改善に直結する。また、車載電池の劣化や故障時の交換費用を考慮する必要もない点も大きな利点だろう。

最後に電池交換の手軽さが挙げられる。

前述したようにEVは、ガソリン車に比べ充電までの時間がかかってしまうことが懸念点の一つ。しかし交換式EVであれば所要時間は3分弱で済み、完全自動で電池交換が可能だ。

タクシー業界は特定地域を中心に稼働することも多く、BaaS事業者としては電池交換ステーションを集中して投入しやすいという背景も普及を促進する要因だ。

中国全土に設置されている電池交換ステーションの約半数を担う奥動(オールトン)の戦略

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