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#1-4 パワーを4倍出すエンジンにチャレンジ:兼坂弘の毒舌評論 復刻版「いでよ 画期的エンジン」

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#1-4 パワーを4倍出すエンジンにチャレンジ:兼坂弘の毒舌評論 復刻版「いでよ 画期的エンジン」

最後に、高効率エンジン開発の可能性として、可変ターボ、戦車用エンジン、船舶用ディーゼルエンジン、2000気圧のディーゼル・エンジン用高噴射率噴射装置、温度を上げた燃料の噴射など、兼坂氏より様々なアイデアが紹介される。「毒舌評論」の初回は、兼坂氏から「もっと燃費のよい第二世代の過給エンジンを世に出して欲しい」とのエールで締めくくられる。
(モーターファン1987年9月号より転載;情報は当時のもの)

▼特集:兼坂弘の毒舌評論 復刻版 第1回 「いでよ 画期的エンジン」 目次
#1-1 なにもクリエートしていない
#1-2 スロットル・ロスを減らす方法も「?」マーク
#1-3 セラミックは有望だが… 
#1-4 パワーを4倍出すエンジンにチャレンジ ← 閲覧中

可変ターボ、バリアブル・ジオメトリーも面白いアイデアだ。これはエアロダイン社が特許を持っているが、ダイムラー・ベンツ社でテストした結果、コンプレックスよりレスポンスがいいという。

かつてヘルシンキの国際会議場にブラウンボベリ社がデモ用に持込んだ、プフのジープ・タイプの4輪駆動車に乗ったことがあるが、アクセルを踏むと、まったく遅れなしに反応する。実にレスポンスがいいことが印象的であった。そのコンプレックスよりいいというのだから、相当のものである。もちろん、このコンプレックスはディーゼル・エンジンに装着されているものだ。コンプレックスは高速でガスが入ってきて、前のガスを追出して、反転して吸入するわけだから、広い回転レンジでは使えない。つまり、回転レンジが狭く、同転が伸びないから、ディーゼル・エンジンの最高回転を下げると使える。とてもガソリン・エンジンでは使えない。また、コンプレックスはターボの4倍くらいコストが高い。使用しているニッケルの量が多いためだ。

ベンツの実験ではよかったというバリアブル・ジオメトリーだが、ターボの専門家にいわせると、コンプレックスよりレスポンスがよくなるはずがないという。最大の問題点は可動部分がうまく作動しなくなるというのだ。

また夢がつぶれてしまうが…。

過給をどんどんして4倍くらいパワーをだしているエンジンがある。ただ、そうするとパワーといっしょに圧力も上がり、エンジンがもたなくなるので、圧縮比を8くらいに下げている。フランスのハイパーバー社とアメリカのコンチネンタル社の戦車用エンジンがこれである。だが、圧縮比が低すぎて燃費が悪くなり、民間用には使えない。しかし、膨脹比さえ高ければ圧縮比を下げても燃費は悪くならないので、この原理を応用して4倍くらいパワーをだしてやろう、というアイデアがある。

いまはディーゼル・エンジンでトライしているが、ガソリン・エンジンでも可能性はあると思う。こんなエンジンができたら、燃費をよくするためにエンジンの回転が落とせる。

急加速するとき、エンジンのカの60%くらいはエンジンそのものを加速して、残りでクルマを加速しているわけだが遅くて強力な工ンジンならもっと加速がよくなる。それに8000rpmまで回るエンジンで最高回転まで引張る人はまずいない。

ディーゼル・エンジンはフリクション・ロスが大きく、噴射装置の問題もあって、回転が頭打ちになるエンジンだが、たとえば、最高回転5000rpmのエンジンでは1200rpm以下のパワーは無きに等しいがこれをアイドリングの600rpmで1200rpm時のパワーをだすエンジンにすれば、エンジンの最高回転数を2500rpmまで下げても同じ伸びというフィーリングはある。

無過給エンジンは1回に吸う空気量は決まっており、それに応じてしか燃料を燃やせないから、回転で馬力を稼ごうということになるが、いい過給エンジンでゆっくり回すというほうが、クルマとしての加速がよくなる。音も静かになり、燃費もよくなり、耐久性もよくなる。ちなみに、船舶用エンジンの最高回転数は75rpmくらいだ。ボア・ストローク比が2.75とか3で、燃費を119g/ps.hくらいにしたいとガンバッている。ゆっくり回して燃焼効率を向上しようというわけだ。乗用車用ディーゼル・エンジンは18g/ps.hくらいだ。トラックと同じ直接噴射式にすれば160g/ps.hになるが現在の技術では乗用車用直噴ディーゼル・エンジンは無理である。200気圧で噴くボッシュ式の噴射装置の代わりに2000気圧で噴ける高噴射率噴射装置が開発されれば、燃費130g/ps.h程度で、排ガス規制をクリアする直噴ディーゼル・エンジンができるはずである。

ウィスコンシン大学のウエハラ先生は燃料の温度を上げて噴射している。燃料はガスになって噴射されガソリン・エンジン並みに静かになったそうである。

また、ガソリンのターボにはノッキングの壁がある。だから、普通は50%くらいしか出力向上が見込めない。それを4倍だそうというわけだが、それにはロータリー・バルブを使って“可変圧縮比エンジン”にすることで、ノッキングを回避しようというものだ。つまり、ノッキングをノック・センサーで検知して、ノックしたらロータリー・バルブでアジャストして、膨脹比を変えないで圧縮比を変える。過給してノックしたら、圧縮比を下げる。さらに過給してノックしたら、どんどん圧縮比を下げて逃げる。

いまのターボはウエストゲート・バルブでブースト圧を下げているがあれは要するに“エネルギー
・ウエスト”である。

現在のターボは第一世代のターボである。いかにエレクトロニック・コントロールしようとも未だ欠点のカタマリではあるが、その欠点すらがアバタもエクボに見えるファンに支えられてきた。このファンがシラケる前に、もっと燃費のよい第二世代の過給エンジンを世に出して欲しい。

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