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EVメタルの相場下落は市場の好機か。メーカーに求められる「目先の利益」ではなく「業界の未来」への視線

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EVメタルの相場下落は市場の好機か。メーカーに求められる「目先の利益」ではなく「業界の未来」への視線

EVのリチウムイオン電池には、正極材としてNMC(ニッケル・マンガン・コバルトの三元系正極材)が用いられている。

世界的にEV需要が低迷を見せはじめた現在、EVメタルの相場下落が顕在化してきている。リチウムやコバルトも下落基調が続くが、中でもニッケルの相場下落は目立つ。

その理由の一つはニッケル大国インドネシアの輸出規制だ。過剰生産によって価格の下落を引き起こしてしまったというものだ。

しかしこれにはメリットもある。

相場下落で電池製造コストが下がれば自動車や電池メーカーには追い風となるからだ。価格下落によりEV需要を喚起できる可能性がある。

この状況はEV市場にとって好機か、それとも甘い罠か。

2020年1月に、「未加工」のニッケルの輸出を禁止したインドネシア。国内のニッケル過剰生産が引き起こした価格下落

ニッケルの最大生産国であるインドネシアでは2020年以降、現在までニッケル生産量が増加を続けている。

同国は2023年時点の米地質調査所(USGS)の調査で、世界全体の生産量の半分もの割合を占めるほど膨大なニッケル生産量を誇る。

そんなインドネシアは2020年1月に、「未加工」のニッケルの輸出を禁止した。

同時に国内での加工を義務付け、そのために国外企業を誘致することで国内製造業の高付加価値化を目指した。結果、2023年にはニッケル生産量を前年から14%増加させた。

世界的にEV需要が鈍化している一方で、ニッケルの供給は急激に増加してしまった。このような現在の実需と乖離した供給過多により、ニッケルの売りが広まった。

輸出禁止は国内での加工を促進する目的だったが、結果的に過剰生産につながってしまったというわけだ。

また、このニッケルはEV電池向けに関心が高いものの、主な用途は依然としてステンレス鋼となっている。主要な消費国である中国で不動産市況の低迷が続き、建材向け需要が弱いことも相場を押し下げる要因となった。

ニッケルの国際指標となるロンドン金属取引所(LME)の3ヵ月金利先物では7月下旬、一時1トンあたり1万5,600ドルまで下落。

この安値はおよそ3年9ヵ月ぶりであり、5月につけた直近高値2万1,750ドルと比較すると実に28%下回る水準だ。

2009年にはじまったインドネシアの鉱物資源の高付加価値化。過剰な成長が生み出した相場下落

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