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リチウムイオン電池(LIB)の充電・放電メカニズムをあらためて学ぶ|基礎から学ぶEVバッテリー

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リチウムイオン電池(LIB)の充電・放電メカニズムをあらためて学ぶ|基礎から学ぶEVバッテリー

リチウムイオン電池(LIB)は、モバイルデバイスから電気自動車(EV)に至るまで、現代社会の様々な分野で欠かせない存在である。その高いエネルギー密度と優れた充放電特性により、特に自動車産業や再生可能エネルギーの分野で重要な役割を果たしている。しかし、その基本構造や充電・放電メカニズムを正確に理解することは、技術者にとって重要な課題だ。本記事では、LIBの基本構造やエネルギー密度に関わる要素、さらに充電制御の方式について、専門的な視点から再確認し、そのメカニズムを深く掘り下げて解説する。

TEXT:小松暁子

リチウムイオン電池(LIB)の基本構造

リチウムイオン電池(LIB)は、現代のエネルギー貯蔵技術の中心的存在であり、携帯電話や電気自動車(EV)、さらにはエネルギー蓄電システムに至るまで、広範囲にわたって利用されている。その基本構造は、正極、負極、電解質、セパレータという4つの主要要素から成り立っている。

リチウムイオン電池の開発 金村 聖志 日本エネルギー学会機関誌えねるみくす 2018年 97 巻 4 号 335-343より引用

まず、正極にはリチウム金属酸化物が使用されることが一般的である。代表的な材料としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)やリチウム鉄リン酸塩(LiFePO4)が挙げられる。これらの材料は、充放電サイクルの中でリチウムイオンを保持し、その放出と受け入れを行う重要な役割を果たしている。

一方、負極には主にグラファイトが使用され、リチウムイオンを充電時に層間へインターカレートさせ、放電時には再び放出する機能を持つ。電解質は、リチウムイオンの移動を可能にする物質であり、液体電解質や固体電解質が利用される。

これらの電解質は、リチウムイオンを効率よく移動させるための通路を提供し、その移動の速さが電池の性能に大きく影響する。セパレータは、正極と負極を物理的に隔てる薄い膜であり、電池内部での短絡を防ぎつつ、リチウムイオンの移動を妨げないように設計されている。

このように、LIBは複雑な材料科学と電気化学の技術が組み合わさった構造を持ち、これらの各要素が相互に作用することで高いエネルギー密度と優れた充放電性能を実現しているのだ。

LIBの充電・放電メカニズム

リチウムイオン電池の開発 金村 聖志 日本エネルギー学会機関誌えねるみくす 2018年 97 巻 4 号 335-343より引用

リチウムイオン電池の充電・放電メカニズムは、リチウムイオン(Li)が正極と負極の間を移動するプロセスに基づいている。充電時には、外部電源からの電流が負極に電子を供給し、これに対応してリチウムイオンが正極から電解質を通じて負極に移動する。このとき、正極では酸化反応が起こり、リチウム金属酸化物が分解される。代表的な正極材料であるリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)を例に取ると、以下の化学反応式で表される。

LiCoO2→Li1−x​CoO2+xLi+xe

この反応により、リチウムイオンが正極から脱離し、電解質を介して負極へ移動する。負極側では、リチウムイオンがグラファイト層にインターカレートされ、電子を受け取ることで還元反応が進行する。負極での化学反応は次のように表される。

C+xLi+xe→Lix​C

放電時には、逆のプロセスが進行する。負極からリチウムイオンが脱離し、電解質を通って再び正極に戻る。このとき、外部回路に電子が流れることで電流が発生し、デバイスに電力を供給する。これらのプロセスは、リチウムイオンの効率的な移動と、電極表面での酸化還元反応によって成り立っている。

このように、LIBの充放電は、リチウムイオンの移動とそれに伴う酸化還元反応を通じてエネルギーを蓄積し、放出するメカニズムである。電解質の性質や電極材料の特性が、このプロセスの効率や速度に大きな影響を与えるため、これらの要素の設計がLIBの性能向上において重要な役割を果たしている。

重量および体積あたりのエネルギー密度の関係

エレクトロニクス実装学会誌/16 巻 (2013) 6 号 リチウムイオン電池 ─誕生と発展 ─ 林 克也 より引用

リチウムイオン電池の性能を評価する上で、エネルギー密度は重要な指標となる。エネルギー密度には重量エネルギー密度(Wh/kg)と体積エネルギー密度(Wh/L)の2種類があり、これらの密度は電池の用途に応じて最適化される。

重量エネルギー密度は、電池の軽量化が求められる自動車用電池において特に重要である。電池が軽ければ、車両全体の重量が軽減され、それに伴い航続距離が延びる。たとえば、電気自動車(EV)では、より軽い電池を搭載することで、1回の充電で走行できる距離が増加し、エネルギー効率も向上する。

一方、体積エネルギー密度は、限られたスペースに最大限のエネルギーを蓄えることが求められる小型電子機器において重要である。スマートフォンやノートパソコンなどのデバイスでは、電池の体積が大きくなりすぎると、デバイス全体のデザインや持ち運びやすさに悪影響を及ぼすため、コンパクトな電池で高いエネルギー密度を実現することが求められる。

エネルギー密度を向上させるためには、電極材料の改良が欠かせない。たとえば、正極材料として使用されるリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)は、エネルギー密度が高い一方で、熱安定性に課題がある。これに対し、リチウム鉄リン酸塩(LiFePO4)は安全性に優れており、主に電動工具や一部の電動車両に使用されている。このように、エネルギー密度の向上には、材料科学の進展が不可欠であり、各用途に応じた最適な材料の選定が重要である。

電極活物質の組み合わせと電池の起電力

エレクトロニクス実装学会誌/16 巻 (2013) 6 号 リチウムイオン電池 ─誕生と発展─ 林 克也 より引用
著者
小松暁子

アルファブルーム株式会社 ディレクター。1977年熊本生まれ。取材記事やテクノロジー系記事をはじめ、不動産や行政、飲食や美容等と幅広いジャンルにて執筆している。

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