イスラエルのメガサプライヤー「モービルアイ」が様々な企業と連携し、「EyeQ」 と「Mobileye Drive」の主要テクノロジーを武器に世界の覇権を狙う
車採用半導体の市場規模は2021年の500億ドルから2030年には約2倍の1,150億ドルに拡大すると予想されている。この成長を牽引するのは、モービルアイ、エヌビディア、クアルコムといった大手半導体企業だ。
エヌビディアはメルセデスやボルボと協力し、クアルコムはBMWと連携を図ることで自動車を高度なコンピュータへと変貌させる取り組みを進めてきた。一方モービルアイは、単眼カメラを用いた先進運転支援システム(ADAS)ソリューションの開発・製品化で知られるADASサプライヤーだ。
2004年に発表したEyeQチップは、世界で1億台以上の自動車に搭載される実績を誇る。2017年のインテル傘下入りにより、開発力が飛躍的に向上し、世界的なリーディングカンパニーへと成長を遂げた。
同社が持つ「EyeQ」と「Mobileye Drive」という2つの主要なテクノロジーは、同社の成長を支える原動力だ。
これらの技術の特徴や、他社との協業の歴史を紐解きながら、同社の今後の展望について考察していく。
目次
800車種に搭載されたモービルアイの主要テクノロジー「EyeQ」が、アップグレードを重ねてきたこれまでの変遷
モービルアイの主要テクノロジーのひとつに挙げられるEyeQチップ。2004年に発表された先進運転支援システムで、これまでに800車種以上に搭載されてきた。
第1世代にあたるEyeQ1が完成したのは2004年のことだ。
当デバイスは、前方衝突警告やレーンデパーチャーワーニング、インテリジェントハイビームコントロール、交通標識認識などの機能を備えている。
翌年には、車載用ICの設計・製造をリードするSTマイクロエレクトロニクスとパートナーシップを締結。これにより、開発力と製品化に向けた取り組みを加速し2008年に本格的な量産化を開始している。
その後もEyeQ1を進化させた第2世代にあたるEyeQ2を開発。
当モデルは、処理能力をEyeQ1の6倍に向上。さらにEyeQ1の機能に加え、歩行者検知機能や自動ブレーキなどの歩行者保護機能を備える。
主な特徴は、まずその高性能な画像処理能力が挙げられる。リアルタイムで高速な画像処理を行うことで、歩行者、自転車、車両、車線などを高精度に検出可能だ。また、雨や雪といった悪天候下でも安定した認識性能を発揮し、様々な状況に対応できる。
多様なADAS機能に対応でき、衝突回避支援システム、車線逸脱警報、歩行者検知、交通標識認識など、様々な安全機能を実現可能とする。EyeQ2は、ボルボS60に採用されており、その他にも多くの自動車メーカーが導入している。
EyeQ2をベースに次世代の先進的なアクティブ・セーフティ製品向けにプロセッサ・アーキテクチャをさらに進化させたEyeQ3を発表。
旧型に比べ高解像度化に対応するため、マルチスレッドMIPS32コア×4とMobileyeの新世代ベクトル・マイクロコード・プロセッサにより、さらに6倍の性能向上を実現した。
具体的にはヘッドライト制御を強化し、進行方向モニタと警告、低速時の画像のみの衝突緩和、障害物検知などの機能が搭載される。また、世界初となる全速度域に対応した画像ベースのアダプティブクルーズコントロールを採用。
EyeQ2より処理能力、機能、柔軟性が大幅な進化を遂げ、衝突被害軽減ブレーキなど自動運転レベル2技術を実装可能なものとしている。また同時期にEyeQ3のコア・アーキテクチャのサブセットを持つ機能限定版となるEyeQ3-Liteを発表。
第4世代にあたるEyeQ4は自動運転レベル3に対応しており、さらに進化を遂げて登場。
旧型では単眼レンズまでしか対応できなかったのに対し、EyeQ4では3眼カメラに対応している点が特徴だ。様々な運転支援機能を搭載し、ファームウェアはOTA(無線アップデート)により常に進化。これにより最新の状態を保つことができる。
中国EVメーカーの蔚来汽車(NIO)が2018年に量産化を開始した「ES8」に世界で初めて搭載された。
また日産が開発した高速道路や自動車専用道路での運転を支援するシステム「プロパイロット2.0」でEyeQ4を採用。これにより夜間の歩行者に対応できる自動ブレーキを実現している。
その他にもBMWやテスラなどでも採用されている実績を持つ。
EyeQ5はレベル4~5の自動運転に対応しており、EyeQ4の8倍にに当たる12T命令/秒の処理性能を5W以下の消費電力を実現。また高速道路でのハンズオフ運転など、より高度な自動運転機能に対応できるよう機能が拡充された。
BMWが開発したレベル3EV「iNEXT」に搭載されるほか、中国吉利汽車(Geely)の高級車ブランドLynk & Coの新モデルにも採用されている。
そして2024年4月に最新モデルEyeQ6 Liteの出荷開始を発表。
EyeQ6 Liteの機能構成は、2つのCPUコアと5つの高演算密度アクセラレータを備える。演算性能は、EyeQ4と比較してほぼ同じ消費電力で約4.5倍の性能を実現した。
占有スペースは従来機のおよそ半分で、コンパクトな設計が特徴だ。また120度の側方視野を持ち、より遠くの環境条件と物体を検知できる8メガピクセルのカメラを搭載し車載用として重要なコンポーネントを備える。
EyeQ6 Liteは、VWやポルシェなどに採用されており、今後数年間で4,600万台の車両に搭載される予定だ。
2025年初頭には、より高度なシステムオンチップである「EyeQ6 High」の発売を発表している。
EyeQ1が登場してから約20年の月日が経ち、製品をアップグレードするために研究開発を重ねてきた。現在までに、Mobileyeの技術を搭載した車両の台数は、世界で1億4千万台以上に達し今後も期待がかかる。