エンジンテクノロジー超基礎講座022|ウェイストゲート(Waste Gate )は何をする? ターボチャージャーの運転状態を制御
ターボチャージャーは「ウェイストゲート」によって存分に働くことができる。いわばセーフティデバイスとも言えるこの機構の仕組みと働きを考えてみる。
ウェイストゲート(Waste Gate)ターボチャージャーの運転状態を制御
ターボにおいてその原動力となるタービンへと導かれる排ガスを逃がすため、つまり使用せずに捨てる=ウェイスト(waste)するためのバイパス(ポート)とそれを開閉するためのバルブを指す言葉が「ウェイストゲート」。
レーシングカーなどにターボが使われ始めた黎明期の時代には、ウェイストゲートといえば、ターボとは独立した専用の別ユニットであった。だが、この形態ではエキゾーストパイプから専用のバイパスを分岐させる必要があり、バルブを経た後もそれをまた排気管に戻す必要があったため大がかりになりがちだった。
当時はレーシングカーの騒音規制がないに等しい時代だったので、排気管に戻してサイレンサーを通すようなことをせず、直接大気開放とする使い方が多かった。一方、一般的な量産ロードカーではそのような手法が許されるはずもない。そこで生まれたのが、ターボのタービンハウジングにスイング式のバルブを内蔵するという手法で、このかたちは現代も引き継がれている。
ターボによって生み出される過給圧(ブースト圧)の過度な上昇を抑えて、エンジンを保護するというウェイストゲートの役割は、ポペットバルブを用いる別ユニット型も、スイングバルブ式のタービンハウジング一体型も同じ。作動(バルブの開閉)にターボのコンプレッサーで圧縮された空気の圧力、すなわち過給圧を用いるという手段も共通だった。
制御対象である過給圧を制御に用いるという手法は、単純でありながらも確実であったためだ。同時に、ターボが普及していった1970年代から1980年代は電子制御技術が未熟であったため、他に選択がなかったという事情も存在していた。
1980年代後半に入ると、電子制御技術の進歩にともない過給圧を利用する手法にはソレノイドバルブを用いた制御が加わるようになる。これはアクチュエーター内部のダイヤフラム部に導かれる過給圧をデューティ制御のソレノイドバルブでコントロールすることで、ウェイストゲートの開閉タイミングをある程度任意に制御できるというものだった。しかし、アクチュエーター駆動力の原資は依然として過給圧であったため、制御の範囲は限定的だった。
ウェイストゲートの制御が完全な自由を獲得するのは、電動式アクチュエーターが普及する2000年代以降のこと。その登場は1990年代後半であったが、それを制御する車載ECUの能力などが成熟し、またアクチュエーター自体の信頼性といった基礎体力が向上して、電動アクチュエーターならではのメリットが十二分に享受できるようになるには、さらに2010年代まで時代を待つ必要があった。
エンジンの保護という役目も担うウェイストゲートの電動化には、信頼性の確保が必須だった。それを乗り越えた今日、ウェイストゲートは過給圧への依存から解き放たれ、その制御自由度は大幅に拡大している。