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世界初となる燃料電池を動力源としたラバータイヤ式門型クレーンの開発と実証試験に成功…NEDOおよび三井E&S

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世界初となる燃料電池を動力源としたラバータイヤ式門型クレーンの開発と実証試験に成功…NEDOおよび三井E&S

NEDOは2023年4月18日、三井E&Sと共同で世界初となる燃料電池(FC)を動力源としたラバータイヤ式門型クレーン(RTGC:Rubber Tire Gantry Crane)の開発とその実証実験に成功したことを発表した。

従来のハイブリッド型RTGCには、ディーゼルエンジンなどで構成される発電機セットとリチウムイオン蓄電池(以下、蓄電池)が搭載されている。今回、発電機セットをFCや水素タンクなどで構成されるFCパワーパックに置き換え、蓄電池を大容量化した。これにより、FCパワーパックで発電したエネルギーを全て大容量蓄電池に蓄積し、そこから供給される電力で荷役することができるため、小型なFCで定常運転ができるRTGCを実現した。

実際のコンテナターミナルでの荷役を模した実証試験では、クレーンの動作やFCパワーパックの熱マネージメントなどの検証を行い、実作業に適用可能なことを確認したという。

概要

物流の拠点となる港湾では現在、二酸化炭素(CO2)の削減・ゼロエミッション化が求められている。中でも港湾内で広く用いられているラバータイヤ式門型クレーンはディーゼル発電機を動力源としているため、脱炭素化が強く望まれている。これまで、ハイブリッド型のRTGCの開発や二次電池搭載の検討がされてきたが、ハイブリッド型RTGCではゼロエミッション化できないこと、二次電池搭載では稼働時間が短く充電時間が長いことが大きな課題だった。

このような背景の下、三井E&Sは2021年度から、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業(※1)」で、FCを動力源としたRTGCの開発に取り組んでいる。

今回、NEDOと三井E&Sは共同で、世界初となるFCパワーパックを搭載したRTGCの開発およびその実証試験に成功した。

今回実証試験に成功したFCパワーパック搭載のRTGC(左:全体像、右:FCパワーパック搭載部分)
今回実証試験に成功したFCパワーパック搭載のRTGC(左:全体像、右:FCパワーパック搭載部分)

今回の成果

1.FCパワーパック搭載のRTGCの開発

従来のハイブリッド型RTGCは、ディーゼルエンジン、交流発電機、整流器などで構成される発電機セットを動力源としている。荷役の際は、ワイヤロープの巻き下げ時に発生するエネルギーを蓄電池にため、巻き上げ時に発電機セットで得られるエネルギーと併用して活用する。

一方、本成果では発電機セットをFC、水素タンク、補機類などで構成されるFCパワーパックに置き換え、蓄電池を大容量化した。FCパワーパックで発電したエネルギーを全て大容量蓄電池に蓄積し、そこから供給される電力のみで荷役する。蓄電池の大容量化により、FCの出力を大きくする必要が無いため小型化でき、瞬間的な出力にも対応できるため定常運転が可能になる。これによりFCの小型化と定常運転化が可能な、世界初のFCパワーパック搭載のRTGCの開発に成功した。

FCパワーパックの外観と機器構成
FCパワーパックの外観と機器構成

2.FCパワーパック搭載のRTGCの実証

今回開発したFCパワーパックを搭載したRTGCを検証するため、三井E&Sの大分工場(大分県大分市)で荷役実証試験を行った。三井E&Sが所有する試験用RTGCにFCパワーパックを含む機器を搭載し、実際のコンテナターミナルでの荷役を模した試験を行った。実証では、クレーンの動作やFCパワーパックの熱マネジメント、冷却システムの成立性、水素消費量、FCパワーパックと畜電池とのエネルギーマネジメントなどを検証。結果、全ての検証において、実作業に適用可能なことを確認した。

今後の予定

本開発に続く取り組みとして、2021年12月に三井E&Sは、NEDOの「水素社会構築技術開発事業」内の「北米LA港における港湾水素モデルの事業化に向けた実証事業」に採用されている。

ロサンゼルス港の実証事業では、今回開発したRTGCの実荷役環境下における稼働状態の安定性や水素充填方法、頻度などのデータを収集し、設計改善へフィードバックを行う。さらに、RTGCを含む港湾荷役機械と、コンテナで海上輸送されてきた貨物をコンテナのまま陸上輸送するトラック(ドレージトラック)の動力源をFC化し、港湾における地産地消型クリーン水素サプライチェーンの社会実装および実証を行う計画だとしている。港湾荷役機器のゼロエミッション化を推進し、カリフォルニア州が定めている「クリーン・エア・アクション・プラン(※2)」に対応。港湾荷役機器分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献するという。

ロサンゼルス・ロングビーチ港での実証イメージ
ロサンゼルス・ロングビーチ港での実証イメージ

※1:燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
<項目名>燃料電池の多用途活用実現技術開発プロジェクト
<事業期間>2020年度~2024年度
<事業概要>下記リンク参照

燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業

※2:2030年までに米国ロサンゼルス・ロングビーチ港港湾地区における排出ガスをゼロに(ゼロエミッション化)する計画

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