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1570kgでBEVが作れるという安心感:トヨタ・新型プリウスPHEV

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1570kgでBEVが作れるという安心感:トヨタ・新型プリウスPHEV
大矢賢樹氏:トヨタ自動車株式会社 Toyota Compact Car Company・TC製品企画 ZF 主査

トヨタ・新型プリウスPHEVに乗ってみたらエンジンが全然始動せず、ほぼ全行程がモーター走行であった。満充電であればもはやBEVとも言えそうなこのクルマ、狙いと特質を開発主査にインタビューした。
(PHOTO:山上博也)

個人的に、カーボンニュートラルやCO2排出量抑制などを効率的に解決したいのならハイブリッド技術こそが決定解だと考えている。バッテリーEV:BEVは、たしかに走行中のCO2排出量はゼロではあるものの、少なくとも2023年現在の日本においてはバッテリーを充電するためのエネルギーを含めて考えれば優位性は薄くなる。さらに、駆動用バッテリーとして主流の三元系リチウムイオンセルは熱管理が難しく、長期間の使用で性能低下の可能性が高い。しかし、使い勝手を考えれば航続距離の長さ(と電欠の恐怖払拭)は必須であり、そうするとバッテリーパックの最大電力量は増加傾向、すると価格と重量は上昇し、さらには充電時間も長くなり、ならば急速充電をとなるとバッテリーセルが傷みやすくなり——という難しさがある。

お断りしておきたいのは筆者は電気自動車の存在を否定するものではなく、むしろパワートレインのパフォーマンスを考えれば「大いにアリ」の立場。前述のようなバッテリーの課題をどうクリアするか、その有効策がハイブリッド車であると考えている。

前置きが長くなった。新型プリウスPHEVである。ご存じ、プリウス(HEV)のバッテリーを大きくしてモーター走行領域を伸張させたクルマである。HEVはモーター走行領域を重視した性格ではないので、先代にあたるプリウスPHV(52系)と数値を比較してみると、

 先代52系:25.0Ah/8.8kWh
 新型61系:51.0Ah/13.6kWh

という具合に、容量としては204%/総電力量としては155%の増強とした。これによりモーター走行距離は52系の60kmに対して、61系は19インチホイール車であれば87km、17インチホイール車だと105kmと、著しい伸張を実現している。実際、横浜みなとみらいで満充電状態のクルマを借り受け、横須賀方面へ向かって往復64.7kmを試乗した際には、その行程をほぼすべてモーター走行でこなしてしまう実力であった。しかも7.4km/kWhという抜群の平均電費である(先導車が速いなと思いながら追走したので、自分のペースならもっと数字を伸ばせたかもしれない)。

もはや小さくて軽いBEVとも言えそうな61系、開発陣にそのような狙いはあったのか。

「日本という地域では1日あたりの走行距離が大体40kmというところで、先代が60km走ったんですけど、今回100kmまで伸ばしたことで、かなりの割合の走行をモーターに置き換えられると思っています。BEVはやはり、たまにしかないかもしれませんが長距離走行のときに充電がネックになると考え、しっかり走るエンジンを搭載することでどんなシチュエーションでもお客さまに電動車両として高いポテンシャルを発揮できると信じて、今回開発しました」(パワートレーンカンパニー・電動パワトレ開発統括部:佐々木翔一氏)

とはいえ、HEVに対して大きなバッテリーを積み増すとなれば車重が増え、パフォーマンスが低下してしまう。具体的にはHEV→PHEVで150kgの増加(Zグレード同士の比較)。61系はこれを解決するために駆動用モーター:MG2の出力を、HEVの83kWから120kWに高めている。すでに綴ったように、60km強の試乗ではほぼモーター走行だったのに対し、その後すぐに乗り換えた60系HEVでは(当然のことながら)アクセルペダルの動きに対してエンジン加勢が多い印象である。

「ハイブリッドとPHEVに加えて、さらにハイブリッドにはFFとe-Fourがあります。例えば、アジャイルに車を運転したいなっていう方はハイブリッドを、リアの駆動力を使った違う走りを感じていただくならe-Fourを、BEVらしい動きならPHEVということで、それぞれお客様の志向に合わせて選択いただけるような車のキャラクター付けもできました。それぞれの特質を考えていただきながら選択していただいて、実際楽しんで乗っていただいた先がカーボンニュートラルにしっかり貢献できている——ということを期待しています」(大矢賢樹氏)

プリウスといえば省燃費のアイコンとも言える存在になったいま、パフォーマンスではなく環境性能に全振りする方向性もあるように思える。

「『燃費チャンピオン』で言うと、すでに数値としてはヤリスハイブリッドのほうが上なんです。一方で、プリウスのお客様にお聞きすると、今の実用燃費で十分満足していただいているということもありましたので、最低限、先代の燃費性能は担保しながらスポーティーなクルマに仕上げていこうとなりました」(大矢賢樹氏)

印象的な数字を挙げてみよう。61系PHEVは、スポーツカーであるGR86の0〜100km/h加速と同等、燃費値は単純にGR86の倍という具合だ。

「そういう意味でいうと、パワートレインをはじめ、動的性能のメンバーからするとかなり難しいことをいっぱいやっていまして、燃費性能を伸ばすだけだったらいろいろな方策はあったと思うんですけど、違う方向に向いたのでさまざまな難しさがありました」(大矢賢樹氏)

試乗時にもうひとつ、強く印象に残ったのがブレーキ制御である。ご存じHEVは制動時、回生ブレーキと摩擦ブレーキを併用するシステムとしていて、効率を考えるならできる限り回生ブレーキとしたい。しかし最終的には摩擦ブレーキに頼るのが常道で、その受け渡しのスムースさを実現するのが難しいとされてきた。初代や2代目プリウスではなかなかの先進感(という違和感)、3代目でそれがずいぶん収まり、4代目ではなかなか感じ取ることができなくなったという印象であった。今回の5代目・60系プリウスはHEV/PHEV問わず、その協調回生ブレーキがとても自然でまったく嫌味がない。

「ドライバー目線になって、車の挙動をどう感じるか、どういう操作をするか、ということを意識してやってきました。今までのトヨタの開発は、良くも悪くも各機能のプロフェッショナルが車にするっていう仕事の仕方だったんですね。そうすると、いいところももちろんありますけど、繋がりでいうとどこか途切れてる部分がやはり出てきます。今回の開発では、車の動きだとか、ひとつひとつのシーンをイメージしながら車作りをしてきたので、その結果として『動きが繋がっている』と感じていただける部分になったと思います」(大矢賢樹氏)

気になるのは、19インチ装着車と17インチ装着車の圧倒的な性能差である。訊けば、単純にタイヤ+ホイールの重さだという。開発陣としてはデザインを含めてモーター走行航続距離は87kmで十分と思えば19インチ車に乗ってもらい、さらに燃費性能を追求したいというユーザーに向けてオプションの17インチを用意しているという次第。しかもこの17インチホイールはスチール製(!)、車重は20kg軽くなり最小回転半径も5.4mから5.3mに縮小する。こちらを「基準車」としていないところに、今回のプリウスPHEVの狙う世界がうかがえたような気がする。

著者
Motor Fan illustrated

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