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水素燃焼と水素エンジンの行方

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水素燃焼と水素エンジンの行方

水素という気体を内燃機関の燃料として使う。最近注目を浴びているこの手段は、じつは古くから取り組まれてきた。きちんと燃やすためには何が必要か。安全に運搬するためにはどのような方策が求められるのか。

カーボンニュートラルの水素エンジン

水素はe-Fuelを含む合成燃料と同じで、カーボンニュートラル実現に向けた選択肢のひとつ。水素をエンジンで燃やすと、化学式(2H2+O2→2H2O+120MJ/kg)で示すとおり、水素は燃焼しても水しか排出しないため、カーボンニュートラルだ。ただし、空気中の窒素と反応してNOxは出る。そのためλ=1では三元触媒、リーン燃焼ではNOx触媒が欠かせないが、λ>2.2の超リーン燃焼をすればNOxはほとんど生成されないので、NOx触媒は廃止できる。

普及のカギを握るのは、規制の内容だ。欧州のようにCO2規制がTank to Wheel(テールパイプエミッション)で規制される場合は、e-Fuelと違って水素は燃えてもCO2を排出しないので、水素エンジン車は禁止の対象外になる。ただし、世界中でWell to Wheelに規制が変更されていく方向なので、将来的にはこのメリットはなくなるだろう。また、燃料電池車(FCEV)と同じく、水素供給のインフラ整備が不可欠だ。その上、同じインフラを使うFCEVとまともに競合する。

水素エンジンの開発の歴史

水素燃焼エンジンへの注目度は昨年あたりから急速に高まってきた。しかしその歴史は古く、多くのメーカーやサプライヤーが開発を進めていた経緯がある。

水素エンジンは1970年代に開発が始まると、いったんは盛り上がったが、2000年代半ばにぱったり開発がとまり、最近になって再び盛り上がりを見せている。武蔵工業大学の古浜庄一先生(故人)が74年に走らせたのが、日本初の水素自動車だ。当初の目的はLOC(Lubricating Oil Consumption:オイル消費)を調べるためだった。水素をエンジンで燃焼させると、排ガスに出てくるハイドロカーボンはすべてオイル由来になるからだ。その後、武蔵工大は自動車のCO2排出の問題解決の手段として開発に取り組んだ。

70年代から80年代にかけて、メルセデス・ベンツやBMWが水素エンジンの開発に乗り出した。とくにBMWは一所懸命やり、100台のBMW750hLを生産してさまざまな環境で走行実験を実施した。マツダは91年に水素ロータリーエンジン第1号車を開発した。水素を含む吸気が熱い燃焼室に触れないロータリーエンジンはバックファイヤ(吸気管燃焼)が起きにくいことから注目された。02年にはフォードが高圧水素タンクを積んだ水素エンジン車を開発している。武蔵工大で75年に作った水素自動車は液体水素を使っていた。その後、水素吸蔵合金(マツダ)を経て、高圧水素(フォード)を使うようになった。FCEVの開発において高圧タンクの改良が進んだので、当初35MPaだった高圧タンクは現在では70MPaが標準的になっている。

著者
畑村耕一

1975年、東京工業大学修士課程修了、東洋工業(現マツダ)入社。ディーゼルエンジン、パワートレインの振動騒音解析、ミラーサイクルエンジンの量産化、ガソリンエンジンの排ガス対策開発などを手がける。2001年にマツダを退職、自動車関連企業の技術指導を行いながら2002年に畑村エンジン研究事務所設立。2007年からはNEDOの委託研究、助成事業で千葉大学とHCCIの共同研究を実施した。

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