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LUUP(ループ)に聞く:電動キックボードは違反と事故の温床なのか?【マイクロモビリティを正しく育てるために 第4回】

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LUUP(ループ)に聞く:電動キックボードは違反と事故の温床なのか?【マイクロモビリティを正しく育てるために 第4回】
マイクロモビリティに関する特集の4回目は、特定原付の代名詞にもなっている電動キックボードを取り上げる。

昨年7月に道路交通法などが一部改正され、特定小型原動機付自転車(特定原付)および特例特定小型原動機付自転車(特例特定原付)という2つの区分が誕生した。規定を満たすものであれば、様々な構造のパーソナルモビリティに運転免許なしで乗ることができる(法律の詳細は第1回を参照)。

このシリーズでは、将来的な可能性と安全性という2つの観点から、この新しい交通手段を検証している。これまで自転車タイプや四輪型を紹介してきたが、今回は特定原付の中で最も知られている電動キックボードについて考える。【このシリーズは、最新号を無料公開しています。】

事故や違反が多い?電動キックボード

ニュースなどで特定原付が取り上げられる場合、電動キックボードの安全性が課題とされることが多い。立って乗車することで重心が高くバランスを崩しやすいことや、車輪が小さいため段差などに引っ掛かりやすいと言われる。警察庁が今年3月に公開したデータでは、昨年7月から今年1月までに全国で発生した電動キックボードの事故のうち、単独が全体の40.6%を占めている。そのほかでは、四輪との事故(29.7%)や歩行者との接触(18.8%)などが続いている。

単独事故が全体の4割を超える電動キックボード(警察庁交通局)

このシリーズで以前紹介したように、特定原付は電動キックボードに限定されない。東京都に関するデータは「特定小型原動機付自転車関連交通事故の状況」とされており、電動キックボード以外の事例も含まれている可能性は除外できない。とはいえ、自転車タイプ(第2回で紹介)の運用が一部の地域に限定され、四輪モデル(第3回で紹介)がまだ発売されていない状況を考えると、多くが電動キックボードによるものと考えられる。

事故に加え、交通違反に関する報道も多い。警察庁のデータでは、特定原付を運転中に検挙されたのは2024年1月の1ヶ月間で1918件に上る。昨年7月の法改正以来、右肩上がりに増加している。最も多いのが通行区分に関する違反で、昨年7月から今年1月では全体の49%を占める。要するに、走ってはいけない所を走行するケースが多い。そのほか、信号無視、一時不停止、歩行者妨害などが続いている。

Luup社の取り組み:安全な運用を目指して

こうした状況を踏まえ、東京や大阪など大都市圏で事業展開する株式会社Luup(ループ;以下、Luup社)に話を聞いた。電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアサービス「LUUP」を運営する同社は、事故や違反を減らすための取り組みを行っているのだろうか。

Luup社は仙台から福岡まで全国の10都市に合計8000箇所以上のポート(貸出・返却場所)を設置。(写真は電動アシスト自転車)

運用面:電動キックボードを利用するには、警察庁監修の交通ルールに関するテストを受け、すべての問題に連続して正解する必要がある。その上で、年齢確認書類の提出が求められる。第2回で紹介した「HELLO CYCLING」と同様、この手続きは同社が提供するアプリを使用してスマートフォンで行う。LUUP利用中の飲酒運転やひき逃げといった悪質な違反行為が発覚した場合は、アカウントを停止した例もあるという。

「交通ルールテスト」で全問正解するとアカウントを作ることができる。走行区分帯や二段階右折、二人乗りや飲酒運転の禁止など交通ルールを学べる仕組みになっている。(「LUUP」アプリのスクリーンショット)

啓発活動:“ポート”(= 貸出・返却場所)を設置している自治体や地元警察と連携した安全講習会や、SNSなどを活用した交通ルールに関する情報発信を行っている。同社は、「現在LUUPは10都市で展開しています。提供エリアが増えるごとに、その地では必ず安全講習会を開催しています。それ以外にも、警察が行う春や秋の交通安全運動と連携した活動も行っています」と説明する。

資本提携関係にある東京海上ホールディングスとも共同で講習会を行うほか、ガイドブックや安全啓発ポスターを作成し配布・掲出しているという。そのほか、昨年7月の改正法施行時には全国紙や東京・大阪の主要駅に広告を掲出した。

ハード面:先に紹介したように、電動キックボードはタイヤが小さいことによる単独事故の発生率が高い。その対策として、Luup社は特定原付の中では大径の10インチタイヤを採用している。ウインカーの操作性も変更しており、スライド式だったものをワンタッチのプッシュ式に改善した。そのほか、以前は黒を基調とした車体であったのを現在の白ベースに変更し、主に夜間の視認性を高めているという。

以前のモデルに比べてウインカーの操作性を向上させたという
特定原付としては比較的大径のタイヤを採用することで安定性の向上に努めているとのことだ

課題である交通ルールや安全な運転方法に関する周知をメインに、様々な取り組みを行っているようだ。こうした施策の成果については、事故や交通違反の件数が今後どのように推移していくか注目したい。

軽車両全体のマナーと安全

特定原付が関係する事故や違反の件数が増加していることに間違いはない。ただし、この区分は昨年7月の法改正で誕生した新しいモノである。電動キックボードの台数が増加すれば事故も増える。違反に関しては、各地の警察が取り締まりを強化していることによる検挙数増加もあるだろう。

また、電動キックボードだけに事故や違反が増えているわけではない。「自転車が第一当事者となる交通人身事故件数」は、2020年から2022年の3年間で1.5倍以上に増えている(日本損害保険協会調べ)。また、交通事故全体における自転車事故の割合も2016年から毎年増加しており、2022年ではおよそ1/4を占める(警察庁調べ)。このような傾向を踏まえ、令和4年の秋ごろから警視庁などが自転車の交通違反取締り強化に乗り出している。

事故件数は減少しているが、交通事故全体に占める自転車事故の割合は増えている。
東京都では「自転車が第一当事者となる交通人身事故件数」は増加している。

前後に子どもを乗せた電動アシスト自転車が、特定原付の最高速度20km/hを遥かに超えると思われるスピードで坂道を下るシーンに出くわすことがある。スマートフォンを操作しながら自転車で歩道を走るケースも少なくない。2013年には小学生(11歳)が歩行者に衝突した事故で、1億円近い損害賠償を神戸地裁が命じた。

電動キックボードに限らず、特定原付に限らず、自転車も含めた軽車両全体の運転マナーを社会全体で見直す時に来ている。

単独事故が多い電動キックボードの特性

ここで、電動キックボードの特性についてもう少し詳しく見ていきたい。先に紹介した警察庁のデータに加え、警視庁の調査でも電動キックボードは単独事故が多いことが報告されている。「特定小型原動機付自転車等の電動キックボードは、他の二輪車両と比較して単独での交通人身事故割合が高くなっています」と注意を呼び掛ける。令和5年1月から同7月末までのデータでは、単独事故の割合が自転車では全体の28.5%、バイクなど他の二輪車(一般の原付を含む)は15.1%だったのに対し、電動キックボードは41.7%だったという。主なパターンは、以下の4つが挙げられている(「交通安全情報」令和5年8月号)。

● 段差で引っかかる
● 濡れた路面やマンホール等で滑る
● ブレーキ操作ミス
● 押し歩き等での不用意なスロットル操作

電動キックボードの単独事故原因は主に4つある(警視庁「交通安全情報」)

2023年5月には、JAF(日本自動車連盟)が電動キックボードの衝突実験を行った。高さ10センチの縁石に時速20キロでぶつかった映像には、前輪が縁石に乗り上げた後、運転者(ダミー人形)が頭から地面に倒れる様子が捉えられている。ヘルメットを装着していないケースでは、「頭部に重度の傷害リスク」が報告されている。

一方で、一般の二輪車と比べると足の位置が低いため、“何かの時”に降車しやすい利点はあるかもしれない。いずれにしても、自転車やスクーターなどの二輪車に比べると、電動キックボードは遥かに新しい存在である。単独事故の多さは、その構造に由来すると同時に運転者の“慣れ”が不足していることも要因と考えられる。安全な使用には、ある程度の習熟が必要なのが電動キックボードだろう。

重心の高さと車輪の小ささのため、電動キックボードの運転にはある程度の習熟が必要と思われる

法改正の周知不徹底

電動キックボードが関連する交通違反では、ほぼ半数が通行帯区分に関するものであることも紹介した。特定原付は、基本的に車道の左端を走行することが求められる。それだけならシンプルなのだが、特定原付の中にさらに別の区分が存在する。

警察庁交通局によると、電動キックボード運転中の交通違反検挙数は「通行帯区分」に関するものが最も多い

詳しくはこのシリーズの第1回で紹介しているが、最高速度が6km/hの“特例”特定原付(正式名称:特例特定小型原動機付自転車)は、自転車の走行が認められている歩道を走ることができる。特定原付の場合は最高速度20km/hで車道、特例特定原付に乗ったら6km/hまでのスピードで歩道走行が(場合によっては)可能と道路交通法が定めている。

ただ、現在流通している特定原付は、ほとんどがスイッチ操作で特例特定原付と特定原付をワンタッチで切り替えられる。警察庁によると、「最も多いのはモードを切り替えずに歩道を走るなどの通行区分違反」とのことで、時速20キロで歩道を走行したケースだ。

停車中に限られるが、"特例”特定原付と特定原付の切り替えはワンタッチ

さらに電動キックボードの中には、一般原付に分類される機種も販売されている。この場合、50ccのスクーターなどと法律上は同じ扱いになる。最高速度は30km/hまで出すことができる一方、ヘルメットを装着して車道を走ることや、運転免許の取得が義務付けられる。電動キックボードが関連する事故や検挙に関する報道で、「免許が要るとは知らなかった」というコメントも散見される。

この複雑な法律と、そのことに関する周知の不足が交通違反件数増加要因の1つであるのは間違いないだろう。ある地方TV局の報道番組では、「車体の大きさ・速度(最高速度30km)など基準を満たせば免許がなくても利用できる(字幕・原文ママ)」と報じられるなど、マスコミの中でも混乱が生じている(2023.12.04/長野朝日放送)。

冷静な議論と法改正を求める

16歳以上であれば運転免許が不要でヘルメットは努力義務、歩道の走行も可能というルールは、特定原付という新しい“パーソナルモビリティ”普及のためにはメリットがあるだろう。脱炭素社会の実現や公共交通の人手不足問題、地方における運転免許返納後の代替手段、過疎地域における交通インフラの補完など、様々な課題解決の可能性を秘めている。

しかしながら、大前提となるべきは安全性の担保だ。JAFの実験では、ヘルメットを着用していれば転倒時の頭部へのダメージは大幅に軽減できることが確認されている。スクーターなどの一般原付と同様に、ヘルメットの着用を努力義務(つまり任意)ではなく遵守義務(≒強制)にすることを少なくとも検討はすべきだろう。

また、交通ルールの徹底には運転免許の取得を義務付けるべきとの声もある。それが効果的な施策かどうかは、交通事故の現場検証時や交通違反検挙の際、運転免許の有無を確認すれば統計的なデータは得られる。客観的なファクトに基づき、安全性の観点から法律“改善”の検討が行われることに期待したい。

また、我々マスコミにも、事実に基づく冷静な報道が求められるだろう。在京テレビ局のニュースでは、危険性を敢えて強調するような表現もみられた。電動キックボードが通過した後、「かなりのスピードが出ているように見えます」と記者が発言。直後に挿入された通行人へのインタビューでは、「怖いな~と思いました。ものすごいスピードで通って行ったんで…」とのコメントを紹介している(2023/08/08日本テレビ)。

しかし、一般走行時の最高時速がおよそ24kmとも言われる電動アシスト自転車に対し、特定原付は下り坂でも20km/h以上の速度は出ない。マスコミも含め、冷静に「何を、なぜ、どうすべきか」を論理的に検討していく必要があるだろう。

求められるのは誰でも乗れるマイクロモビリティ

Luup社では将来に向けて「若者からお年寄りまで、年齢を問わず乗れるような乗り物」の研究開発も進めているという。「電動キックボードが、全国のあらゆる短距離移動ニーズに最適だとは考えていません。将来的には、誰にでも利用いただけるような安定性の高いユニバーサルなモビリティの導入を目指しています」と広報担当者は展望を話す。

人材不足や採算性などの問題によって、都市部でも電車やバスの本数が減少するなど公共交通機関の縮小が既に進んでいる。クルマが生活必需品となっている地方では、運転免許を返納したくでもできない高齢者がいると聞く。第3回で紹介したスズキの四輪タイプも含め、特定原付が1つのソリューションとなる可能性は十分にあるだろう。

具体的な仕様は決まっていないとのことだが、Luup社は「三輪〜四輪で安定性の高いユニバーサルなモビリティ」の開発に取り組んでいるという。どのような仕様でいつ提供されるのか、今後も注目していきたい。

電動キックボードが世の中に登場したのが、2017年の夏ごろと言われているそうだ。その後の爆発的な普及により、世界各国で適切なルールや走行環境の整備を模索している状況らしい。Luup社も、日本における安全な運用方法を検討していく必要性を認識していると言う。「LUUP以外の(電動キックボード)ユーザーにも正しい交通ルールを理解いただくために、引き続き警察などとも協力していく必要があると考えています」という同社の姿勢を含め、ハード的にもルール面でも、電動キックボードが安全な乗り物に進化していくことを期待したい。

自動車専用道路の走行や逆走、20km/hでの歩道走行など、現状では交通ルールを守らない利用者も間違いなく存在する。そうした状況は、何よりも電動キックボードのメーカーやシェア事業社にとって死活問題だろう。運転マナーや車体構造面も含め、より安全なパーソナルモビリティに育てるための業界全体の取り組みにも注目していきたい。また今回の取材を通して、我々マスコミも含めた社会全体で建設的な議論を進めて行く必要性も強く感じた。

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