フォードがレベル4の自動運転を断念?ラティテュードAIを設立した戦略の転換
アルゴAIへの出資を打ち切り開発を断念している
アルゴAIが開発していたのは、自動運転レベル4の高度な自動運転技術。しかし、ビジネスに結びつくのは2020年代後半と判断し、戦略を転換した。
2023年3月2日、フォードは自動運転システムを開発する子会社「ラティテュードAI(Latitude AI)」を設立したと発表した。2022年10月には、レベル4自動運転技術を開発する「アルゴAI(Argo AI)」への出資を打ち切り、開発を断念している。
ラティテュードAIにはアルゴAIの元従業員を約550名採用し、ハンズフリー運転システム「ブルークルーズ」などの自動運転技術の開発を拡大するという。
市場の変化に伴って戦略を転換
フォードが出資していたアルゴAIが開発していたのは、自動運転レベル4の高度な自動運転技術だ。マイアミとオースティンで完全無人運転の走行も可能にしていた。
しかし、フォードはレベル4の自動運転がビジネスに結びつくのは、早くても2020年代後半と判断し、アルゴAIへの出資を打ち切りラティテュードAIを設立した。機械学習、ロボティクス、クラウドプラットフォーム、マッピング、センサーなど、自動運転開発の分野に携わっていた元従業員約550名を雇用している。
ラティテュードAIでは、レベル4の自動運転技術の開発をリードしていたアルゴAIから一転し、一般車向けに需要の高いレベル2やレベル3の開発に注力するという。
レベル2・3とレベル4の大きな違いはドライバーの存在だ。
レベル3までは運行設計領域(ODD)で自動運転が行われ、システムによって運転の継続が困難だと判断されるとドライバーによる運転と交代する。つまりドライバーの存在が前提となっている。
一方、レベル4はドライバーの存在を必要としない。遠隔監視装置を設置し、走行を監視する特定自動運行主任者を配置すれば、運行設計領域で無人の自動運転が可能だ。しかし、自動運転バスや配送などの定められたルートで走行することを前提としている。
つまり、自家用車向けではなく商用車に利用されることが多い技術だ。現段階でフォードは、レベル4以上のシステムが普及するのはまだ先のことだと考え高度な自動運転技術ではなく需要の高さに応える戦略に転換した。
レベル2の「ブルークルーズ」がコンシューマー・リポートで高評価を得る
フォードは、2023年4月13日に英国の自動車専用道路でレベル2の運転支援システム「ブルークルーズ」の使用許可を取得したと発表した。
ブルークルーズは、英国運輸省の認可を受けたブルーゾーンのエリア内であれば、ハンドルから手を離して運転手の監視下のもと、車両による自動運転が可能になる機能だ。マスタング・マッハEに導入され、月額17.99ポンドで使用できる。イングランド、スコットランド、ウェールズの全長約3,700mの高速道路がブルーゾーンとして設定されており、自動運転が可能だ。
発表によると、フォードとリンカーンの車両に搭載されているブルークルーズは、米国とカナダでは19万3,000人のドライバーによって1億2,000万kmの走行実績がある。米消費者団体専門誌「コンシューマー・リポート」で、最も評価の高いアクティブ・ドライビングアシスタンス・システムにも選出された。
一般向けに搭載されている自動運転技術の需要が高いことからも、レベル4の開発を行うアルゴAIへの出資を打ち切り、レベル2やレベル3の開発に注力するラティテュードAIを設立したのだろう。
各メーカーで実装されるレベル2のADAS
レベル2に該当するADASは各メーカーから様々な名称で登場している:
・日産自動車:ProPILOT2.0
・ホンダ:Honda SENSINGElite
・トヨタ:Advanced Drive
・スバル:アイサイトX
・ゼネラルモーターズ:Super Cruise
・BMW:ハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能
・Rivian:Rivian Driver+
・フォード:ブルークルーズ
これらのADASはハンズオフ・アイズオンでしか利用できない。特定の条件下でハンズオフ・アイズオフを可能にするレベル3は、ホンダの「Honda SENSING Elite」やメルセデス・ベンツの「Traffic Jam Pilot」、アウディの「Audi AIトラフィックジャムパイロット」などに実装されている。BMWは、今後販売する次世代型7シリーズへレベル3に該当するADASの搭載を予定している。
アルゴAIではレベル4の自動運転を目指していたが、現状フォードではレベル2に該当するブルークルーズを実装しているのみとなっており、レベル3のADASは発表されていない。
フォードの戦略転換による今後の動向は
アルゴAIに出資を行い、最先端となるレベル4の開発に取り組んできたフォードだが、レベル2やレベル3の開発に注力するラティテュードAIを設立したことによって、今後の動きは大きく変わってくるだろう。
レベル4を用いた自動運転バスなどの開発が活発になり、レベル3に該当するADASも登場している。しかし、フォードはもともとレベル3を手動運転と自動運転が混在するため危険だと考え、開発を飛ばしてレベル4の開発に取り組んでいた。
精度の高さよりも、需要の高い自家用車に搭載されるADASの開発に転換したフォードの動向に注目していこう。