自動車駆動用モーターとはどのような機械なのか[電動車の基礎技術]
電気モーターは古くから存在する技術だが、自動車の駆動に広く用いられるようになったのは、ここ最近のことだ。電気、そして磁気という、目に見えない力を扱いながら自動車を走らせる、その仕組みの礎となる要素を読み解いてみよう。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI)
目次
01.モーターが回転し始める原理、回転し続けられる原理
電気モーターは電気エネルギーを駆動力という物理的なエネルギーへと変換する機械だが、そこで利用されるのが電気の流れるときにその周囲についてまわる磁場だ。しかしこの磁場は、あくまで“場”、つまりフィールドにすぎない。
モーターが、磁石と磁石の間に生じる吸引力や反発力や、鉄を引きつける力、いわゆる磁力を利用していることは、広く知られていることだが、先の磁場(磁界とも呼ばれる)とはこの磁力で満たされている場であり、三次元的に広がる空間だ。
磁石で磁石、あるいは釘のような鉄でできたものを引き寄せると、引き付けている間は物体(この場合は磁石に引き寄せられる磁石や釘)が移動、つまり運動するが、双方が接触したところで運動は止まる。磁石同士の反発力の場合も同様に、磁力が作用の限界となる距離まで双方が離れると運動は終わりを迎える。これに対し、我々がモーターに期待する駆動力は、いわば“終わりのない”連続的な運動だ。少なくとも“カチッ”とくっついてそれっきりでは、モーターは成立しない。つまり、ただ磁場があるだけでは“ダメ”なのだ。
そこでモーターでは連続的に力を得るべく、磁場を常に動かしている。もっと具体的にいえば回転させている。馬の背に乗る騎手が持つ竿で、馬の前にニンジンをぶら下げるという、古典的なジョーク、あれに似た状態を作り出すと思えばいい。走れど走れど、馬は永遠にニンジンはありつけないのと同様に、回転する磁場を追いかけるようにローターが回転するも、ローターが回転すると磁場も回転……この“イジワル”な構図こそがモーターが動作する原理だ。この回転する磁場は“回転磁界”と呼ばれており、交流の電気であれば容易に作り出すことができるのだが、自動車の電力源であるバッテリーから得られるのは直流のみ。そこで交流に変換する装置が必要になる。“インバーター”である。
自動車の駆動力コントロールに用いられるインバーターの特徴のひとつが、モーターの運転状態に応じて、さまざまな周波数の交流が作り出せることだ。周波数と回転磁界の回転数は比例関係にあり、停止状態のモーターが動き出す(回転を始める)と同時に回転磁界も回転を開始する(正確には回転磁界が現れることで、モーターの運転が始まる)。