開く
TECHNOLOGY

無振動エンジンを開発せよ:OBRISTのZero Vibration Generator

公開日:
更新日:
無振動エンジンを開発せよ:OBRISTのZero Vibration Generator

シリーズハイブリッド用の無振動メタノールエンジンを開発しているOBRISTを取材した。同社は1996年創業のオーストリアのエンジニアリング企業で、エミッション低減に関するさまざまな研究開発を行なっている。無振動エンジンに加えて開発中のaFuelを使えばカーボンネガティブ走行も可能になる。


TEXT:畑村耕一(Dr.Koichi HATAMURA) FIGURE:OBRIST

Zero Vibration Generator 3rdプロトタイプ
逆回転の単気筒エンジンをふたつ並べ、1次と2次のバランサーによってエンジン本体は無振動。これにジェネレーターを1機搭載すると加減速に伴う反力モーメントが発生し無振動でなくなる。そこでヘロンバランサーを使って無振動を実現した。

エンジンの振動の原因は主としてふたつある。一般的によく言われているのが往復慣性力の不釣り合いによる振動Rで、回転数の2乗に比例して大きくなる。あまり注目されていないのがトルク変動に伴う振動Mだ。トルク変動というと出力軸の振動のように思いがちだが、実際は筒内圧とコンロッドの傾きによるシリンダブロックへの加振モーメントが原因の振動だ。クランクシャフトからフライホイールにトルク変動が伝わるが、大部分はフライホイールダンパーで吸収される。そのためフライホイールが激しく加減速回転運動をする。この加減速の反力モーメントをシリンダブロックが受けているので、ブロックが回転振動をすると解釈してもいい。フライホイールを加速しようとするとブロックは反力モーメントを受けて反対方向に回転させられるというわけだ。ハンドルを右に切ると体が左に傾くのと同じ現象だ。この振動Mは筒内圧力で決まるので、回転数とは関係なく、負荷が高いと振動が大きくなる。

この振動が問題になるのは、2気筒と3気筒エンジンの低回転からの急加速開始直後のブルブル振動だ。フィアット500(2気筒)やヤリスHEV(3気筒)に乗ってみるとその問題の大きさがよく分かる。アイドル振動の主原因もこれだ。2気筒エンジンの採用が広まらないのはこの振動が原因だ。

シリーズハイブリッドでは、エンジンは低回転の高負荷で運転する頻度が高いので、振動Rは小さく振動Mが主要な振動になる。この振動Mを排除するのが逆回転フライホイールを使うヘロンバランサーで、それを応用した無振動エンジンが世界でふたつ開発されている。図に示すOBRISTの2気筒エンジン(2nd-3rdプロトタイプ)とイシカワエナジーの対向ピストンエンジンだ。共に逆回転する2本のクランクシャフトを備えている。

Zero Vibration Generator 1stプロトタイプ
カウンターウェイトが1次バランサーとなり、小さな2次の往復慣性力だけが残る。エンジン単体ではほぼ無振動になるが、搭載した1機のジェネレーターを加減速する反力モーメントが発生して回転振動が起こる。
Zero Vibration Generator 2ndプロトタイプ
2機の逆回転ジェネレーターを搭載して反力モーメントを釣り合わせた。さらに偏心重りを持つジェネレーターを2倍速で回転させて2次の往復慣性力をバランスさせた。
「無振動」を実現する技術
ジェネレーターを1機に減らしたのが3rdプロトタイプだ。廃止した左回転のジェネレーターの代わりに左回転のクランクシャフトにヘロンバランサーを追加して、右回転するジェネレーターの加減速の反力モーメントを釣り合わせた。2次のバランサーを廃止して、バルブ駆動用カムシャフトに4つのカム山を設けておもりを往復運動させた。カムシャフトは0.5次なのでおもりは2次の不釣り合い振動を発生してピストンの2次振動と釣り合う。
著者
畑村耕一

1975年、東京工業大学修士課程修了、東洋工業(現マツダ)入社。ディーゼルエンジン、パワートレインの振動騒音解析、ミラーサイクルエンジンの量産化、ガソリンエンジンの排ガス対策開発などを手がける。2001年にマツダを退職、自動車関連企業の技術指導を行いながら2002年に畑村エンジン研究事務所設立。2007年からはNEDOの委託研究、助成事業で千葉大学とHCCIの共同研究を実施した。

PICK UP