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【海外技術情報】CNRS(フランス国立科学研究センター):フランス北東部で世界最大規模の天然水素鉱床を発見

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【海外技術情報】CNRS(フランス国立科学研究センター):フランス北東部で世界最大規模の天然水素鉱床を発見

CNRS(フランス国立科学研究センター)が、フランスとドイツとの国境地帯にあるロレーヌ地域北東部炭田下に、恐らく世界最大とされる埋蔵量を有する天然水素鉱床が存在することを発見した。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

フランスとドイツの国境地帯にあるロレーヌ鉱山盆地はこれまで炭鉱としてよく知られていたが、最後の炭鉱は20年前に閉鎖された。ところがこの地域の土壌の下にある別の主要なエネルギー源=水素により、これから世界的に有名になる可能性がある。ナンシー市にある地球資源研究所の教授であるフィリップ・デ・ドナートとジャック・ピロノンによって発見された。

「私たちが分析したデータは、ロレーヌ鉱山盆地の地下に白い水素(以下、ホワイト水素)が非常に豊富に含まれていることを示した。この発見が真実であると確認されれば、クリーンで気候に優しいエネルギー源への移行における大きな前進となる可能性がある」とデ・ドナート氏は報告した。

ご存知の通り、水素は化石燃料を置き換える取り組みにおいて不可欠な推進力である。燃料電池を搭載した自動車の動力として水素が利用されることが期待されている。また、セメント工場、鉄鋼生産、冶金など、現在メタンに依存している多くの産業に対して、クリーンな代替手段を提供できる。

デ・ドナート氏の言うホワイト水素とは、地下で自然に形成される二水素(H-H)のこと。生産時に温室効果ガスが発生しないため、ホワイト水素と呼ばれる。化石燃料から製造されるグレー水素は大量のGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)を生成するが、ホワイト水素は水素を直接入手できる」とピロノン氏は説明した。

ホワイト水素はグリーン水素よりもクリーン

当初、地質学者達はロレーヌの田園地帯の地下にある別の資源、具体的にはメタン(CH4)を探していた。

「私たちの発見は、ある意味偶然だった。私達の目的は、2018年に独立系電力会社ラ・フランセーズ・ドゥ・レネルジーと立ち上げたプロジェクトの一環として、フランスのIFPEN石油・新エネルギー研究所が2012年に実施した評価を確認することだった。同研究所はロレーヌ鉱山盆地下の土壌サンプルを分析した結果、そこにフランスの8年分のガス消費量に相当する3,700億立方メートルのメタンが存在すると結論づけた。」とデ・ドナート氏は語る。

この推定値を検証するには、帯水層の水、つまり透水性の地下岩層の水に溶解しているガス濃度を、その場(深さ1,000m以上の地下)で継続的に測定する必要があった。この課題に対処するため、研究者達は特殊なシステムを開発した。Solexperts社と協力して制作されたSysMoGと呼ばれる革新的なシステムがそれであり、2023年4月に特許を取得したという。

2022年後半、坑道の様々な深さにおけるガス濃度のプロファイルを確立した。600mと800mの石炭層の分析により、最初の重要な発見が明らかにされた。それらの深さに存在するガス混合物は96%以上がメタン。ほぼ純粋なメタンであった。

地下約1,000mに濃度15%の水素

さらに興味深いことに、研究者達は測定を行っている間に、別のガス=ホワイト水素の存在も検出した。

「200mではこの化合物の濃度は非常に低く、約0.1%であった。これはこの深さでは非常に一般的である。しかしその後、探査機がシャフト内を降下するにつれて、水素レベルが上昇し始めた。そして600mから800mの間で水素レベルが1%から6%に急上昇した。
何が起こっているのか、私達は本当に疑問に思い始めた。これほど高濃度の水素が地下で発見されたのは世界で初めてだった。それは始まりにすぎなかった。深さ1,100mでは15%を超えた。そのとき私達は、予期せぬホワイト水素の堆積物を発見した可能性があることに気づいた」とデ・ドナート氏は語った。

研究者達は、この貴重なガスが私達の足元に隠された水素工場によって継続的に生産されており、その原料は水分子と炭酸鉄[FeCO3とCa(Fe, Mg, Mn)(CO3)2]で構成される鉱物であると考えている。ピロノン氏は次のように説明した。

「フォルシュヴィラー鉱山の周囲の土壌には、これら2種類の化合物が豊富に含まれている。それらが接触すると、酸化還元反応が起こり、ミネラルが水分子(H2O)を酸素(O2) と水素(H2)に分離する」

地質学者によると、深さ1,100mで検出された水素は、より深いところで生成され、拡散によって上昇する。この仮説は、さらに深層ではさらに高濃度の水素が存在することを示唆している。デ・トナート氏によると、初期のシミュレーションが正しければ、深さ3,000mでは水素濃度が90%を超える可能性があるという。この数字が正しければ、ロレーヌの埋蔵量には約4,600万トンの天然水素が存在する可能性があり、これは現在の世界のグレー水素の年間生産量の半分以上に相当する。

これらはまだ推測の段階である。今後数週間以内に、すでに調査した坑道から半径40km以内にある3つの坑道で、深さ800~1,000mで測定して、周囲全体にガスが存在することを確認する。その後、その深さを掘削するために業界関係者の協力を得て、深さ3,000mの水素濃度の推定値を検証する。最後に、水素を抽出するための実行可能な技術を開発する。

ラ・フランセーズ・ドゥ・レネルジー社は天然水素の探査と生産の許可を申請している。同社の地球科学・鉱山ガス担当ディレクターのロマン・シュニヨ氏は「この発見は大きな可能性を秘めている。ロレーヌから得られる水素はクリーンであることに加えて、別の重要な利点も提供する。ドイツのザールと結ぶヨーロッパの水素輸送ネットワークの構築を目的としたプログラム『mosaHYc』プロジェクトのパイプラインを供給できる可能性がある」と述べている。

著者
川島礼二郎
テクニカルライター

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系専門書の編集者等を経て独立。フリーランスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに執筆している。

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