開く
BUSINESS

自動車産業のトランスフォーマー?【メガサプライヤー トップインタビュー①】 - ZFはエネルギーマネージメントと物流・人流ソリューション企業に変身? -

公開日:
更新日:
自動車産業のトランスフォーマー?【メガサプライヤー トップインタビュー①】 -	ZFはエネルギーマネージメントと物流・人流ソリューション企業に変身? -
ZFのこれからのキーワードは「トランスフォーメーション」だと話すゼット・エフ・ジャパンの多田直純社長。

自動車業界が「100年に一度の変革期」を迎えたと言われて久しい。この変革においては、ADASや電動化などが大きな軸と言えるだろう。そうしたトレンドの技術開発の一翼を担っているのがサプライヤーだ。

この特集では、グローバルに包括的なシステムを提供している“メガサプライヤー”にインタビュー。自動車産業の今と未来について聞く。初回はグローバルなTier 1の一角であるZF Friedrichshafen A.G.。日本法人のゼット・エフ・ジャパン株式会社、多田直純代表取締役社長に聞いた。

確実に進んでいく電動化

--:このところ、メルセデス・ベンツ社が2030年までの完全EV化を撤回したり、アップルがEV開発から撤退したり…。流れが変わったように思いますが、バッテリーEV(BEV)の将来をどう見ますか?

多田直純社長(以下、敬称略):電気自動車(の販売)が少し停滞している時期にあるのは確かですが、将来に向けて販売台数が伸びるのは間違いないと思います。ヨーロッパやアメリカ、中国の一部では成長スピードが鈍っていますが、ASEANでは半年くらい前からEVの台数が増えています。現在、新車販売の30%以上がEVです。

--:多少の変動はあっても、クルマの電動化は確実に進んでいくとお考えですか?

多田:物流におけるカーボンニュートラル化は、クルマを電動化して再生可能エネルギーを使用しないと絶対に達成できないと思います。モビリティの電動化は「必然」ですね。そこにたどり着く過程で、今はちょっと停滞しているだけでしょう。

--:中長期的な予測は?

多田:ZFは毎年パワートレインの傾向を予測します。昨年12月の時点では、2035年に世界で1億台ほどのクルマが生産され、そのうちの8,000万台くらいが電気自動車になるとみていました。現在のスローダウン傾向が反映された最新の数字でも、7,800から7,900万台と考えています。いずれにしても、2035年前後には電気自動車がマジョリティになると思います。

--:BEVが幅広い層に受け入れられるでしょうか?

多田:「これからは電気自動車だ!」と言われ始めた頃は、まずテスラの販売台数が伸びました。それから、メルセデスやBMWなどがBEV用プラットフォームを発表していきました。これらの自動車メーカーは、(クルマという商品の)“ピラミッド”において上位セグメントのクルマを造っている会社です。エコなイメージも受けて、「新しい物好き」の富裕層にBEVが行き渡っていきました。

今、中国では「EV価格のダンピングが起きている」と言われます。それは、値下げと同時に電気自動車が低価格帯に移行しているからだと思います。台湾や中国にはBEVを造るためのサプライチェーンができ上っていて、高品質の部品が安く市場に出回っています。

低価格帯のEVが増えて全体の台数は伸びていくはずです。現在は高級志向のお客さんに行き渡り、普及価格帯に浸透するフェーズに入る前の、ちょっとしたスローダウンだと思います。

ZFにとっては「トランスフォーメーション」の時代

--:確かに日本にも、テスラやメルセデスなどに加えてBYDやヒョンデなどが進出しています。

多田:これからはコスト競争力がないと勝てなくなります。それから、安く簡単にできるようになると、「クルマづくり」なのか、それともクルマというモビリティの「価値づくり」なのかということを考える必要も出てきます。

シャオミーやファーウェイがクルマをつくり始めましたよね。いずれは低価格帯に進出し、ITに関する知見を生かしたアプリケーションソフトを載せていくと思います。SDV(ソフトウェア定義型車両)化が進めば、ICE(内燃機関)搭載車両からBEVへのトランスフォーメーションも加速すると思います。

--:クルマのスマホ化ですね。

多田:今後5年くらいの間に、この2社のような「ゲームチェンジャー」がもっと参入してくると思います。SDVがもっと一般化されると、「私ら、どうしたらいいんやろうな?」という状況です(笑)

--:OEM向けのビジネスから転換も必要とお考えですか?

多田:サプライヤーが競争力をつけてきているという話をしましたが、中国や欧州の自動車メーカーはそうした会社を取り込んで垂直統合を進めています。日本のOEMは、系列部品メーカーを含めた協力体制を構築していくでしょう。そうなると、「メガサプライヤー」と呼ばれる会社は厳しい状況に陥ると思います。「生きていく道がなくなるんやろうな」っていう危機感を持っています。

--:ZFが危機感を感じる程ですか?

多田:ZFでは“トランスフォーメーション”と呼んでいますが、自動車メーカーへの部品供給という今までのビジネスモデルから視点を変える必要があります。将来的には、E/Eアーキテクチャとアクチュエーターがあって、高性能コンピューターとクラウドに繋がるコネクティビティを持っていれば、OTAでアップグレードしてクルマの機能や価値が上がる仕組みになるでしょう。ZFはハイパフォーマンスコンピューターやアクチュエーターのビジネスにも力を入れますが、OEMの垂直統合によって参入しづらくなるリスクもあります。

--:では、どこに「視点を変える」のですか?

多田:電気自動車とエネルギーの融和がカギになると考えています。今後はサプライチェーンのカーボンニュートラル化も企業に求められます。ロジスティックス面も含めて、CO2の排出量をゼロにしていかなければなりません。そうすると、再生可能エネルギーを使ったソリューションが必要になります。

長距離輸送はFCV(燃料電池車)が主流になると思いますが、“ラストワンマイルデリバリー”においては電気自動車しかないでしょう。それを考えると、例えば配送センターでソーラーパネルによる発電を行い、蓄電池にため、充電器を設置して充放電できる仕組みがつくられていくと思います。

昨年5月、ZFジャパンは商用EV向けのプラットフォームである「エナリティ」を発表した。同時に、伊藤忠商事らと共同でEVを非稼働時に蓄電池として活用し、車載バッテリーとしてのライフを終えた後に再利用するなど「ライフサイクルマネージメント」計画も打ち出している。

PICK UP