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北海道が誘致を急ぐ「自動運転実証実験」の現状。広大な土地と厳しい積雪環境下で浮き彫りになった課題と可能性|第3回 オートモーティブ ワールド【秋】-クルマの先端技術展-

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北海道が誘致を急ぐ「自動運転実証実験」の現状。広大な土地と厳しい積雪環境下で浮き彫りになった課題と可能性|第3回 オートモーティブ ワールド【秋】-クルマの先端技術展-

北海道が自動運転実証実験を積極的に誘致していることをご存じだろうか。もともと、北海道はモビリティ関連メーカーのテストコースが多い地域。近年では自動運転向けのテストコース誘致にも力を注いでいる。

今回、TOPPER編集部ではオートモーティブワールド【秋】にて北海道経済部産業振興局産業振興課成長産業係長の小林 峻氏に取材を行った。取り組みの詳細を掘り下げていくと、今、北海道が直面する多くの課題が浮かび上がってきた。

TEXT:石原健児
主催:RX Japan株式会

国内最多28カ所。積雪・凍結路面、極限環境で進化する開発技術

北海道は、冬季において3ヶ月以上の降雪・積雪期間が続く特殊な地域である。道央の旭川を例にあげると、1月の厳冬期には積雪はおよそ70cm、気温はマイナス10℃に達する。こうした過酷な自然環境では、道路にアイスバーンや吹き溜まりが発生し、通常の路面とは異なる条件が多く生じる。この広大な土地と厳しい気候条件を活かし、北海道には自動車関連メーカーのテストコースが数多く設置されている。

トヨタやホンダ、スズキといった大手自動車メーカーだけでなく、ブリジストンや横浜ゴム、デンソーなどのサプライヤー企業も北海道にテスト施設を所有しており、その数は国内最多の28か所にのぼる。「各メーカーは、特に積雪が多く、かつ路面がアイスバーンとなる場所を選定しています」と小林氏は語る。

このような極限環境での試験は、自動運転技術やタイヤ、ブレーキシステムといった車両制御技術の開発において、他地域では得られない貴重なデータをもたらしている。メーカーにとって、これらの環境が車両やシステム性能を検証する上で重要なリソースとなっていると言えるだろう。

自動運転実証実験の誘致を開始

これまでの実績を踏まえ、北海道では2016年から企業向けに自動運転実証実験地の誘致を開始した。「今回の展示会では、特に積雪が多い地域、たとえば札幌や石狩、根室など道央地域を中心に紹介しています」と小林氏は語る。

自動運転の実証実験は2017年から道内各地で行われている。2017年度から2019年度にかけては、経済産業省が「積雪寒冷地に適した自動運転技術の開発」を実施。2018年度からは国土交通省が人工衛星を活用した「除雪現場の省力化」の取り組みを開始し、現在も継続している。

しかし、自動運転の実証実験を通して、北海道の厳しい現実も浮き彫りとなっている。

自動運転実証実験が映し出す「北海道特有の課題」とは

「2023年と2024年に当別町で実施された自動運転EVバスの実証は、交通課題の解決だけでなく『賑わいの創出』という目的もありました。また、2019年に斜里町で農協やUDトラックスが行った『自動運転トラックによる農産物輸送』はドライバー不足の解消を目的としていました」(小林氏)

1997年を境に人口が減少に転じ、全国平均以下のレベルで人口減少が続く北海道にとって、過疎化は深刻な問題である。こうした背景から、北海道では自動運転向け実証実験地の誘致を目指し、企業向けにさまざまな情報発信を行っている。最適な施設や土地を紹介するほか、公道での実証実験も想定し、対応可能な公道のデータベースを無料で提供している。

「道路幅や車線数、歩道の有無など、25項目の条件から最適な公道を検索でき、検索結果は地図データとして表示されます」(小林氏)

最適地としては、既存の公共・民間施設が紹介される一方で、十勝スピードウェイや北日本自動車大学校テストコースなどに加え、廃校になった自動車学校やスキー場、イベント会場、農道空港など、今は使われなくなった施設も見受けられる。自動車実証実験のPRを通じて、地域の衰退という現実も浮かび上がって来るのだ。

自動運転実証実験の誘致は好調、外部からの関心も高い

2016年から始まった誘致は順調に進み、2023年までに北海道が支援した自動運転実証実験は111件にのぼる。問い合わせ件数も372件と外部からの関心は高まっている。

「自動車関連メーカーからの相談は集計していませんが、毎年数件は相談があります。また、道内にテストコースを持っている企業からは『コースが手狭になりつつあるから拡張したい』という声があがっていると聞いています」。

企業の関心も高い。自動運転のソフトウェアを作っているメーカーからは『地図の3次元データはありますか』という問い合わせが寄せられたという。「具体的な用途は明かされていませんが、地形のより詳細なデータをソフト開発に役立てるのかもしれませんね」。

北海道ではJRの廃線問題がしばしば話題に上るが、最近では人手不足によるバス路線の廃止も相次いでいる。自動運転の実証実験誘致は過疎化の進行を食い止めるきっかけとなるかもしれない。

北海道の広大な大地は、これまで交通網発達・維持の壁となってきた。しかし、国内自動車メーカーが欧米など日本よりも広大な土地を持つ海外への進出を視野に入れた場合、そのマイナスポイントが大きなアドバンテージとなるに違いない。官民一体となった取り組みに期待が高まる。

著者
石原健児

取材ライター。
1966年東京生まれの北海道育ち。大学卒業後、イベント関連企業、不動産業を経て印刷業へ。勤務先のM&A・倒産をきっかけに2016年からライター業を始める。医療系WEB媒体、ビジネス誌「クオリタス」などで活動。医師、弁護士、企業経営者、エンドユーザーなどを対象に取材してきた。総取材人数はだいたい1500人。就学前までに自動車や転落事故で「九死に二生」位は得ていると思う。最近好きな言葉は「生きてるだけで丸儲け」。

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