旭化成、生成AIを新規用途探索の自動化や製造現場の技術伝承において活用開始
旭化成は、材料の新規用途探索や製造現場の技術伝承において生成AIの活用を開始したことを発表した。過去のデータやノウハウなど、これまで蓄積された無形資産の活用を生成AIによってさらに加速し、競争力強化や事業上のリスク低減が目指される。
1. 新規用途探索の自動化による競争力強化
新規用途探索とは、既存の材料や新しく開発した材料について、新たな用途を見つけることである。従来は、専門性を持つ従業員の調査・分析によって用途の候補を考案し、その中から有望なものに絞り込みが行われていた。
今回、専門人材と各事業領域が連携し、用途を自動抽出するAIと、その中から特に有望な用途候補を抽出する生成AIが開発された。それにより、すでに膨大な文献データから6,000以上の用途候補が考案されたほか、ある材料では候補の選別にかかる時間を従来の約40%に短縮することができた。
生成AIの活用により、専門家のアイデアと遜色のない用途候補を短時間で考案することや、より革新的な発想が可能となる。今後、材料化学や医療分野の新規用途探索で活用が進められ、将来的には生成AIにより他社製品の技術分析を行うことで、協業先選定に活用することも視野に入れられている。
2. 製造現場の技術伝承によるリスク低減
製造現場では、事故や災害を防ぎ安全に設備を運用するために、作業前に想定されるリスクを洗い出して対策を図る「危険予知」の活動が行われているが、熟練社員の高年齢化および退職により、ノウハウの継承が課題となっている。
従来は個人の経験をもとにリスクが予知されていたが、過去事例のデータを読み込ませた生成AIを活用することで、経験の浅い従業員でも抜け漏れなくリスクと対応策を洗い出し、安全性と効率性を高めるとともに、技術伝承を加速できるようになった。
今後は、作業前の危険予知に加え、画像・音声など工場の各センサーから取得した非構造化データを解析し、作業中の危険回避にも役立てられていく予定とされている。
3. 旭化成の生成AI活用方針
旭化成は2023年5月よりグループ全体での積極的な生成AI活用を支援し、業務効率化を進めている。今後は生産性向上に加え、上記のような競争力強化や事業上のリスク低減に生成AIが活用されていく。
4. 社内での活用促進施策
個人の業務利用においては、各従業員が既存の生成AIツールを使いこなすスキルを身に着けることが重要となる。一方、各組織の業務に特化した用途では、そうしたスキルに加えて、ソフトウェアやITなどの技術・知識が必要となる。そのため、旭化成では個人利用と組織利用の両面で、生成AIの活用が支援されている。
個人利用
Microsoft 365 Copilotなどの既存サービスを活用し、個人の生成AI活用を促進している。従業員向けのデジタル教育「旭化成DXオープンバッジ」内で生成AIコースを開講し、日本マイクロソフトと連携しての教育プログラムを実施するなど、全社的な人材育成が行われている。
事例:書類作成や社内資料検索などに生成AIを活用し、業務全体として2,157時間/月の時間短縮
組織利用
2023年12月より、社内のシステム開発者向けに生成AIモデル利用基盤が公開され、各組織のデジタルプロ人材がそれぞれの業務に合わせた生成AIを社内で構築・管理・運営できるようになった。
特に技術的難易度が高いテーマについては、生成AIの専任組織である生成AI・言語解析ユニットと工場などの生産現場を支援するスマートファクトリー推進センターが技術的支援を行い、必要に応じてシステム開発などが行われている。
事例:書類監査対応において、ニーズに合わせた生成AI開発によりプロセスを効率化し、年間1,820時間の時間短縮