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EVは過剰生産?高まる各社の生産能力は市場のニーズと均衡するか?

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EVは過剰生産?高まる各社の生産能力は市場のニーズと均衡するか?
フォードのEV生産施設「ブルーオーバル・シティー」コンセプトデザイン

世界のEVメーカーが、生産拠点の設備投資や人材雇用に巨額を投じて生産力を高めている。いっぽう無秩序な生産計画に供給過剰を懸念する声も。EVは本当にそんなに必要なのか?

乱立する大規模EV工場

富士経済は、世界のHV、PHV、EVの新車販売台数が、2035年までに7,600万台に達すると予測している。これに近づくかたちで、各EVメーカーの工場建設・増設計画が続いている。

フォード:2026年までにEVへ500億ドルの投資を計画

テネシー州に建設中のフォード「ブルーオーバル・シティー」(2023年3月)

米フォード・モーターは2021年、韓国のSKイノベーションとEVバッテリーの共同生産で合意し、米テネシー州とケンタッキー州の2州に3つのEV工場を建設する計画を発表した。114億ドルを投資し、約1万1,000人の雇用と2025年の稼働を目指す。

テネシー州では56億ドルを投じてEV生産施設「ブルーオーバル・シティー」の建設を開始。約6平方マイルの敷地で新型電気トラックの生産を行い、車両の組み立て、バッテリーの生産、サプライヤーパークが垂直統合されたエコシステムを構築する計画で、約6,000人の雇用を視野に入れている。

ケンタッキー州ではフォードとリンカーンのEV新ラインナップに電力を供給する2つのバッテリー工場からなる「ブルーオーバルSKバッテリーパーク」を建設。58億ドルを投じて5,000人の雇用を創出する予定だ。

フォードは2026年までにEVへ300億ドルを投資する計画を、2022年3月に500億ドルに引き上げ、年間200万台以上のEVを生産する計画を明らかにしている。

テスラ:2030年までに年間2,000万台のEV生産計画

ネバダ州のテスラ「ギガファクトリー」

米テスラは2014年から、ネバダ州に540万平方フィートの「ギガファクトリー」を建設。2016年に稼働を開始し、2023年1月までに、73億個のバッテリーセル(年間37GWh以上)、150万個のバッテリーパック、360万個のドライブユニット、100万個のエネルギー・モジュール(合計14 GWh以上)を生産。これらに1万1,000人以上を雇用した。2023年1月には、36億ドル以上の新規投資と新たな3,000人の雇用、2つの新工場が加わる計画を発表した。

2017年にはニューヨーク、2019年には中国上海、2022年に独ベルリン、米テキサス州オースティンと続々生産拠点を増やし、2023年1月には7億7000万ドル強を投じたテキサス州オースティンの工場拡張、ネバダ州の電池工場に36億ドルを追加投資することが報じられ、2023年3月にはメキシコのヌエボ・レオン州に新工場の建設を発表。今後も各地で増設・拡張を続ける拠点全体で、同社が2030年までに掲げる年間2,000万台の生産計画に迫ろうとしている。

このほか、トヨタは2021年、2030年までにEVの販売目標を350万台にする計画を発表。ゼネラル・モーターズ(GM)は、米ミシガン州、テネシー州、インディアナ州やメキシコのコアウイラ州、中国上海でのEV生産に着手。2025年までに年間100万台以上のEV生産目標を掲げている。スタートアップを含め、EV市場に意欲的な世界のメーカーの投資は留まることを知らない勢いで増え続けている。だが、果たしてEVシフトへの道は思い描かれたように進むのだろうか。

EV生産過剰の懸念

生産能力を競う各社の動きは、販売台数の予測より生産台数が上回るという事態を引き起こす可能性がある。

テスラは現在、年間100万台以上のEVを生産する能力(2022年のEV販売台数の約10%)を持っているが、2030年までに年間2,000万台のEVを生産する計画が達成できれば、富士経済による世界のEVの新車販売台数が2035年までに5,774万台に達するという予測と照らし合わせると、30%以上のシェアを占めることになる。

中国BYDは、2022年の新車販売台数が180万台を超えたことを発表し、巨人テスラを抜いてEV販売台数世界1位の企業となった。2023年は2倍の360万台を目指しており、現代自動車グループ(ヒョンデ)など数百万台規模の年間販売台数を目指す他の大手らも目標を達成した場合、市場予測を超えるEVが供給される可能性は否定できない。

中国政府はかつて、テスラの上海工場を歓迎したが、いまは過剰な生産を懸念し、拡大の承認に対して消極的になっている。中国では、今月破産申請をした恒大など不動産の過剰供給も問題視されており、世界のEVメーカーも同様の末路をたどることがないよう堅実な生産計画が求められる。

見通しの悪いゼロエミッションの実現性

国際エネルギー機関(IEA)は「Global EV Outlook 2023」の中で、2030年には世界のEV販売台数が自動車全体の35%に達すると予測している。2022年の世界全体のEV販売台数は1,000万台を超えたが、これは世界の自動車販売台数である7,940万台の約1割に過ぎない。各社のEV競争は「今後EVの需要が高まる」という見込みに全賭けしている状態だが、生産能力と消費者の購買意欲が均衡にならなければ過剰供給は免れない。多くの消費者にとって、EVはまだ価格が高く充電が不便な選択肢であり、気候変動はなかなか自分事にならない。中古EVが出回るようになれば新車を選択する人はさらに減るだろう。

欧州は2021年、2035年までにすべての新車販売をゼロエミッション車にする目標を発表したが、ドイツの自動車メーカーを筆頭に、イタリア、ポーランドらが難色を示し、環境に良い合成燃料を使う条件付きで内燃機関車の新車販売を認める方針に修正した。急速なEVシフトによる変化は、消費者にも自動車産業にも良い影響ばかりではない現状を、どう改善していくかによって、EVの真価が見えてくるのだろう。

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