日本初の自動運転レベル4が福井県で運行中!新たな公共交通機関として期待
自動運転車が実現する過疎化地域の新たな移動手段
日本ではじめて自動運転レベル4による移動サービスを一般向けに運行開始した福井県永平寺町では、地元住民の生活はどう変わったのか。
自動運転車とそれに付随するサービスの研究開発が世界各国で進んでいる。日本も例外ではなく、国および自治体で自動運転車の導入に向けてさまざまな動きを見せている。
福井県永平寺町では2021年度から経済産業省と国土交通省の共同によるプロジェクト「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」が進められてきており、複数回の実証実験を経て今回正式に自動運転サービスの運行が開始した。自動運転車による移動サービスは地域と住民にどのような効果をもたらすのだろうか。
一般向けの自動運転による移動サービスが開始
2023年5月21日、福井県永平寺町で一般向けの自動運転による移動サービスが開始された。移動サービスで利用される車両は、ルートや速度など特定の条件下であれば運転手を必要としない自動運転レベル4であり、国内で公道を走ることが認可されるのは今回がはじめてのことである。自動運転レベル4の公道走行は道路交通法の改正に伴い、2023年4月1日から解禁となっている。
福井県永平寺町で使用される車両は公道仕様の電動カートをベースにした7人乗りの普通自動車であり、走行速度は12km以下に設定されている。「永平寺ろーど」と呼ばれる全長8kmの道の内、荒谷〜志比区間までの約2kmを走行し、片道10分ほどで移動可能だ。運賃は片道で大人100円、中学生以下は50円となっており、誰でも利用しやすい良心的な価格設定になっている。
運行は、福井県永平寺町から委託を受けた「まちづくり株式会社ZENコネクト」が行う。運行に関わる作業は遠隔監視室のスタッフによる発進時の操作のみであり、その他の作業はすべてシステムに任せている。運行初日は地元住民や観光客など多くの人々で賑わい、トラブルが発生することなく1日を無事に終えた。実際に乗車した方からは車両の静かさや低速移動による安心感を評価する声が多く、子どもの通学や高齢者の移動手段、観光客向けに利用されることが期待されている。
自動運転レベル4を実現させた日本の技術
今回、福井県永平寺町で運行開始した自動運転車は、ヤマハ発電機、産業技術総合研究所、三菱電機、ソリトンシステムズの共同開発によって実現した。
ヤマハ発動機は自社製品のグリーンスローモビリティ「AR-07」をベース車両として提供し、車両制御に関連する各種技術と管制システムの開発を担当した。三菱電機が各種センサー類を含んだ車両制御システム、ソリトンシステムズが遠隔監視システムとその通信技術を開発。産業技術総合研究所は幹事機関となり、自動運転レベル4実現に向けて各社を取りまとめた。日本を代表する企業の技術力が集結したことで、福井県永平寺町での自動運転レベル4が実現したといっても過言ではないだろう。
ヤマハ発動機に関しては、2022年2月に発表した中期経営計画で新規事業と成長事業を戦略事業領域として捉え、コア事業に育てるための経営資源を配分するポートフォリオマネジメントを実施すると発表した。その新規事業の一つとして、公共交通機関が利用できない地域の移動課題の解決を目指す方針を示しており、今後も自動運転車の導入を検討している自治体や団体のサポートを継続していくものと考えられる。
緊急事態に備えた体制
自動運転レベル4では、万が一の事故やトラブルに備えて実際の人間による監視は欠かせない。福井県永平寺町においては、町より業務委託を受けた「まちづくり株式会社ZENコネクト」が自動運転車の運行管理と監視を担う。
自動運転車が通る道のすぐそばにある建物に遠隔監視室を設置し、走行する車両からリアルタイムで送信されるカメラの映像を大型モニターに映して担当者が確認する。問題や異常が発生した際は、監視室のアラームが鳴り、担当者はカメラの映像を確認しながら、車両に搭載されたマイクやスピーカーを利用して乗客に直接話しかけて状況確認を行う。
監視室には常時2名の担当者が配置されており、自動運転が再開できない場合は1人が現場に向かい、もう1人は監視室に残って乗客の状況を把握するようにしている。現状では事故やトラブルが発生したという記録はないが、万が一の際はしっかり対応できる体制が整っているため、安心して乗車できるはずだ。
自動運転レベル4車両は過疎化地域の救世主となるか?
日本は少子高齢化という重大な社会問題に直面しており、各地で人口減少が深刻化している。過疎地も年々増加傾向にあり、地方においては利用できる公共交通機関が少ないため、思うように移動できないというケースも珍しくない。特に高齢者の場合は運転免許証を返納していたり身体的な制限によって移動が容易ではない場合もあり、利用しやすい新たな移動手段が必要だ。
今回福井県で運行が開始した自動運転車を活かした移動サービスは、走行距離は長くはないが、地元住民の生活における利便性を向上させたことには変わりない。時速12km以下で走行する車両は安全性が高く、歩行者とすれ違う際も減速するようになっている。また、万が一の事故やトラブルに備えて担当者も配置しているため、誰でも安心して気軽に利用できる。
現状では福井県永平寺町のみが公道走行の認可を受けているが、既に各地で自動運転車を取り入れる動きは活発化している。今後はこういった移動サービスが増えていくことが予想され、過疎化地域に住んでいる方でも何不自由なく移動できる日もそう遠くはないはずだ。