開く
TECHNOLOGY

空気を使わないタイヤ開発はどこまで進んでいるか[トーヨータイヤのnoair]

公開日:
更新日:
空気を使わないタイヤ開発はどこまで進んでいるか[トーヨータイヤのnoair]

空気入りのタイヤは、今日の自動車において、必要不可欠といえる要素のひとつ。きわめて優れた性質から、自動車の黎明期から長きにわたって普遍とされてきたものだが、ここにきてその状況が急激に変化しつつある。背景にあるのは技術の進歩と、100年に一度といわれる時代の変化である。

TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) PHOTO&FIGURE:TOYO TIRES

「折りたたみ椅子に着想を得た(後述)“X型スポーク”構造が特徴です。じつはタイヤ力学モデルに用いられるのが、(タイヤの断面に)“X”状にばねを交差するように配置するという表現なのですが、まさにこれを踏襲するようなかたちにもなっています」

トーヨータイヤが研究開発を進めているエアレスタイヤ、“noair(ノアイア)”について説明してくださったのは、同社の榊原一泰氏(技術開発本部先行技術開発部設計研究・技術企画グループグループ長)と、村田裕子氏(同副グループ長)。ともにnoairの研究開発を現在進行形で手掛けているエンジニアである。

業界に先駆けるかたちで高速走行を可能としたエアレスタイヤ「noair」。タイヤ断面に対して“X型”となる交差配置のスポークで構成されるX字型スポーク構造が最大の特徴。トレッド側の外側リングと、ホイール側の内側リングをつなぐ100本のスポーク(2本一組でX字型を構成)の弾性変形を利用することで路面からの入力を吸収し、接地面を担保する。

これまでのタイヤで当たり前とされてきた、風船のような空気入りの構造を用いることなく、ショックを吸収しながら、接地性をも確保するというエアレスタイヤの技術は、現在世界中で多くのメーカーが手がけている。そこでは空気入りタイヤが持つ機能において、いわば中核といえる“エアクッション”の作用を、エラストマーと呼ばれる柔軟性をもつ樹脂の弾性で置き換えようというところまではいずれも共通だ。非線形材料である樹脂のもつ弾性への置き換え、利用のしかたは各社それぞれが工夫を凝らすかたちとなっているわけだが、なかでも異彩を放っているのが、冒頭の言葉に代表されるトーヨータイヤのアプローチだ。

とはいえ、樹脂という“固体”の弾性を用いて、“気体”である空気を利用する“空気ばね”の特性に近づけるというのは、決して容易なことではない。だからこそ、自動車のタイヤにおいては“空気入り”という要素はこれまで“アンタッチャブル”とされてきた。加えていうなら、自転車から果ては航空機のランディングギヤまで、他においても空気入りタイヤ以外に代替の効かない用途が、いまだ多く残るのもそのためだ。

柔軟性を持っているとはいえ、樹脂は空気よりもはるかに固い(硬い)。当然ながらしっかりとした構造で支えるかたちでは、しなやかには動かないわけで、空気ばねと同等の特性を目指すと、構造はおのずと“華奢”なものになってくる。そのため、エアレスタイヤと呼ばれるものの多くは、スポークの形状こそ“十人十色”の様相を呈するものの、それらはほぼ共通するかたちで細く、また華奢に見えるもので、またその形状と配置も複雑だ。ところがnoairのスポークはそれらと比べると“太め”で、配置もきわめてシンプル。冒頭の説明にもあるように、断面(子午面)でみれば、文字通り“X”字型に交差しているものの、真横からの景観は太めのスポークが整然と放射状に並ぶかたちだ。

著者
Motor Fan illustrated

「テクノロジーがわかると、クルマはもっと面白い」
自動車の技術を写真や図版で紹介する、世界でも稀有でユニークな誌面を展開しています。
http://motorfan-i.com/

PICK UP