日産e-4ORCEは月を走れるか?[JAXAと日産の共同研究]
月表面を覆うさらさらの砂の上を失敗なく走るためにはどうするか。
そのための技術として日産は宇宙開発機構とe-4ORCEを研究している。
「やっちゃえ日産」の究極とも言える本技術について、企画・先行技術開発本部のエンジニアに訊いた。
TEXT:安藤眞(MakotoANDO) PHOTO:MFi/NISSAN/JAXA
日産はJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と、月面探査車両(通称“月面ローバ”)の走行性能向上を目的とした共同研究を2020年1月から行なっており、昨年12月には実験車両が公開された。JAXAは日産に何を期待し、日産はそこから得られたノウハウを、どのように使おうとしているのだろうか。
「日産が開発を進めている電動4WD“e-4ORCE”で提供したい三つのバリューは、①乗る人すべてに快適な乗り心地、②卓越したハンドリング性能、③路面を問わない安心感ですが、今回の共同開発に関わってくるのは、③の性能です。雪道や豪雨時だけでなく、安心して走れる環境をより広げるには、特に難しい砂地の制御を構築したい。誰しもが砂漠に行くわけではありませんが、もっとも難しい環境を走れる制御ができれば、より多くのシーンで質の高い制御ができるようになるはずです。一方で、月の表面は非常に粒子の細かい“レゴリス”という砂で覆われていますから、砂漠と同じように、スタックするリスクが非常に高い。実際、NASAが火星に送ったローバがスタックして動けなくなり、探査を断念したという事例が起きています。アポロ計画以降、惑星の探査は無人で行なっていますから、スタックしても、誰も助けにいけない。ですからスタックさせてはいけないし、スタックしても、自力で脱出できなければいけない。そこが月面ローバにおける課題であり、日産が求めていることと一致する部分です(日産自動車株式会社 企画・先行技術開発本部 先行車両開発部 部長:中島俊行氏)」
しかも、それをいかに効率よく行なうかというのも、共通の課題だという。
「ロケットに搭載できる重量はあまり多くありませんから、宇宙にはエネルギーをたくさん持っていくことができません。限られた燃料と太陽光で賄うしかないので、なるべく少ないエネルギーで走行することが求められます。しかも、スタックから脱出するのに多くのエネルギーを消費してしまうと、目的地にたどり着けない。ですから『なるべく少ないエネルギーで信頼性の高い駆動力制御を行ないたい』という点でも、JAXAとわれわれの求めるところは一致しているのです(中島氏)」
では、具体的には現在、どのようなことをやっているのか。
「現在は原理研究がメインとなっています。砂は非常に粒が細かく、地面の形状が刻々と変わってしまいます。制御が難しいのはもちろんですが、シミュレーションするのも難しい。粒子ひとつひとつの振る舞いの計算は非常に難易度が高いため、原理原則を解明した上で、実際の路面変化を近似したシミュレーション技術を開発する。そうすることで、制御則が作り込めるようになり、実車による評価が可能になります。こうしたサイクルを回せるようにするための出発点を、JAXAと共同して行なっているところです(中島氏)」