現在のトルク制御技術を支える車載ネットワークとその変化
近年のAWD車では、センターデフを持たず電子制御カップリングのみでトルク配分するというシステムが主流となっている。背景にあるのは電子制御技術の進歩だが、そこでカギとなる要素となっているのがCANに代表される車載ネットワークだ。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI)
CAN(Controller Area Network)が限界を迎えつつある。背景にあるのはADAS/ADやコネクテッド化などにともなう通信量、すなわちトラフィックの増大である。
最大で1Mbps(1秒あたり1メガbit)の通信速度のCANが初めて市販車に搭載されたのは1991年のこと。もともと1980年代からボッシュにより開発が進められていたこの技術の狙いは、当時急速に発達していた電子制御により問題になりつつあった、ハーネスを構成する配線の量(本数)の増加とそれにともなう重量増を回避することだった。
実際に(CAN採用の)ファーストケースとなったメルセデス・ベンツSクラス(W140型)は、その先代モデル(W126型)から採用が始まっていたASD(オートマチックロッキングデファレンシャル)やASR(アクセラレーションスキッドコントロール)といった車両安定制御技術に加え、当時としてはかなり先進的で複雑なECUで緻密に制御されるV型12気筒エンジンが採用されており、室内にも電動の快適装備をふんだんに採用していたことから、これらを制御するコントロールユニット(ECU)の数が飛躍的に増加。さらには車格も大幅に拡大されたことで、重量増を最小限に抑えることが求められていた。