BEVが電力ひっ迫時のピークカットを助ける:充放電制御と業務用空調が連携するマネジメントの実証実験がスタート
ICE車両とは異なり、BEVはエネルギーである電力を容易かつ効率的に出し入れすることができる。この特徴を活かしV2Hなどの取り組みは以前から進められてきたが、日産と空調メーカーであるダイキンほか計4社がお互いの共創によって次世代エネルギーマネジメントで新たなチャレンジを開始することを発表した。
TEXT&PHOTO:MFi FIGURE:NISSAN/DAIKIN
脱炭素化に向けた取り組みは、車両の内燃機関からの排出ガスだけではなく、製造時のCO2削減も重要であることは言うまでもない。それだけではなくBEV増加に伴う電力の需給バランスを調整するためのマージナル電源に注目しなければならないことは、本誌の畑村耕一アドバイザーも繰り返し述べている。
この電力需給調整力にBEVをより活用する実用化検証の試みが2023年12月19日、日産を始めとする4社から合同で発表された。市民中心のスマートシティ実現を目指す一般社団法人AiCTコンソーシアムのもと、日産自動車、空調メーカーのダイキン工業、ITによる成長政略を司るTIS、自動車部品などの機械加工/熱処理/研磨を手掛けるマツモトプレジションの4社が協力し、需給調整力創出へ取り組む。
具体的にはマツモトプレジション社屋の空調に、敷地内の充放電システムに接続されたBEVから供給される電力をより有効活用するというもの。家庭やオフィスにおける電力使用量のうち大きな割合を占める、空調や給湯機器用ヒートポンプ設備の稼働を電力ひっ迫時に抑制すれば発電量を増やさず需給バランスを保てるが、単に空調を切ったり充放電網に接続されているBEVから均等に放電しては快適性や利便性を損なってしまうのは明らかだ。マツモトプレジションは東北地方最大規模のソーラーカーポートを2021年12月から建設し、約2000枚のソーラーパネルで671.5kWの総電力を確保。太陽光発電では賄えない時間帯は配電網から供給を受けるものの、非化石証書を購入することで大幅なCO2削減に取り組むことを企業理念としているが、職場環境の快適性とBEV社用車の利便性を高めつつ、エネルギーの地産地消を進め電力コスト削減に繋がるこの試みに参画した。
今回の実用化検証では同社社用車のアリア、リーフ、サクラと従業員が通勤に使うサクラの計4台を、日産が開発した自律充放電システムに接続。ダイキンが既に市場投入している空調制御デマンドシステムと日産のシステムを新たに連携させ、空調やBEVの各車のSOCをよりきめ細かく制御する。通勤車両からの放電にはTISの知見を活用して地域通貨と連携したインセンティブを与えるなど、より広範囲の脱炭素化への道筋も検討。将来的にはこうした分散型のエネルギーリソースをIoTによって仮想的に束ねて電力の需給バランスを調整するVPP(バーチャル・パワー・プラント:仮想発電所)も想定するなど、BEVの大容量電池を従来以上に広いシステムに取り組む、野心的なチャレンジだ。