クルマも道路も、作るより直すほうがムツカシイ:NEXCO東日本・外環自動車道幸魂橋の溶接補修
クルマは使ううちに調子も悪くなり、壊れもする。クルマが走る道路もまた、経年劣化で補修が必要になる。NEXCO東日本が管理する東京外環道の幸魂橋で興味深い補修が行なわれると聞き、取材に出かけてみた。
TEXT:三浦祥兒(MFi) PHOTO&FIGURE:NEXCO東日本/MFi
(本稿は2014年4月に執筆したものです)
高速道路の高架部分や橋梁の構造がどうなっているのか。取材に行くまで知りもしなかった。鉄道だと鋼材だけで作られた橋もあるが、道路はコンクリートの桁でできているのだろう、くらいのものだった。実際、ほとんどがそうらしい。だが、コンクリートの乾燥などで工期がかかるのと、橋の場合、重量がかさむので、最近は「鋼床板」という鋼材をリブ状にした建材で作るようになってきたという。おおざっぱに言えばブリキの波板状の大がかりなユニットを継ぎ合わせて、その上に鉄板を敷きアスファルト舗装をする。大きな部材をボルトや溶接でつなぎ合わせていくので、シンプルで合理的な工法に思える。
ところが、今回取材した戸田の幸魂橋では、平成4年の開通から20年が経過し、リブの屈曲した部分や溶接部などに亀裂が発見されるようになった。外環道は大型車の通行量が多く、丁度トラックのトレッド部分の直下に度重なる振動で亀裂が発生。この度それを補修することになった。これまでは亀裂箇所の周囲を切り取って、当て板を当ててからボルトで固定するという手法を採っていたが、今回から初めて溶接による補修を行なうことになった。あて板はボルトを両側から締結しなければならないため、部位によっては舗装をはがしてから施工を行なう必要があり、工数が増える。そのため以前から溶接で補修できないか可能性を探っていたらしい。ん?最初から溶接じゃダメなんすか? 素人丸出しの質問に現場の方はこう答えた。
「溶接して作ったものを溶接で補修するのは、強度の面でどうしても不安があったんです。物性が変わってしまうので」
自動車のボディについて蘊蓄を語る雑誌の編集者として顔から火が出た。そうなのだ。溶接はその周囲に応力が集中して剛性が落ちる場合がある。最初からキチンと設計施工するケースならともかく、後から無分別に発生した亀裂を溶接するとなると信頼性に疑問が出るのは当然だ。NEXCO東日本と施工を担当する横河工事では長い年月をかけて研究を行ない、信頼性に目処がついたため溶接補修に踏み切った。
亀裂そのものは塗装割れ等目視でわかるが、それがどのくらい進行しているかは磁気探査や超音波で非破壊検査を行なう。その結果溶接可能と判断されれば溶接を行なうし、範囲が大きければ当て板方式、もしくはリブのユニットごと交換というケースもある。溶接の場合はTIG溶接で施工する。不活性ガスで酸素を追い出し、溶接棒を熱で溶かして接合する工法だ。ステンレスのタコ足に使われるといえば話が早いか。鋼板自体はSM490材。圧延鋼板だが炭素の含有量が少なく、溶接に対する親和性が高い。亀裂の終端部にストップホールと呼ばれる穴を開けて亀裂の進捗を抑えた上で溶接し、錆止めのペイントを施す。塗料は周囲とは色調を変えて補修箇所が一目でわかるようにし、後々の検査をしやすくしている。