ワイヤレスバッテリーマネジメントシステム、2021年にGMが採用するも普及は足踏み状態[FOURIN通信]
期待を集めて登場したワイヤレスBMS。しかし費用対効果の視点からなかなか採用が進まない。2024年現在の状況を整理してみる。
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[FOURIN通信]
1980年創業、自動車産業調査のパイオニア・FOURIN社が刊行する自動車調査月報より、今後の自動車業界を読み解く特別寄稿。毎月末日更新。
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バッテリーマネジメントシステム(BMS)は、バッテリーセルの保護/監視/最適化を中心に、さまざまな役割を果たす。安全性や製品寿命だけでなく、電動車の充電性能≒航続距離にも影響する重要なシステムである。
一般的にBMSは、ケーブルとコネクターによってバッテリーモジュールに接続される。これを無線化したワイヤレスBMS(wBMS)なら、構造が簡素化され、バッテリーの体積エネルギー密度が向上するなどの利点がある。
wBMSの提案は2016年頃から活発になり、2021年にはGMがUltiumアーキテクチャのBEVで量産採用を開始した。しかし、同じUltiumをベースとするホンダの2車種を除くと、2024年春までにこれに続く自動車メーカー(OEM)はない。Renaultは2024年5月発売予定のRenault 5 E-Tech ElectricでwBMSの採用を開始する計画であったが、2027年以降のAmpere第2世代BEVに先送りした。wBMSの普及は足踏み状態にある。
GMが実用化したにもかかわらず、各社が二の足を踏む原因は、wBMSの費用対効果にあると考えられる。wBMSはバッテリーコントロールユニット(BCU)とバッテリーモジュールを結ぶ有線ケーブルをワイヤレス化するが、それ以外の部品(コンタクター/センサー等)は引き続き有線で接続される。セル間にも通信ケーブルが残る。一方、セル監視ユニットには新たに無線装置や専用ソフトウェアが必要になる。標準化も進んでいない。
OEMの多くは、wBMSに一気に移行するのではなく、銅線からフレキシブルプリント基盤(FPC)への切り替えを優先している。例えば、トヨタbZ4XはFPCモジュールの採用により、配線部の高さを約60%削減している。
BCUではなく、ジャンクションボックス側で一部のセンシングを行い、高電圧と低電圧を分離管理する新たなBMSアーキテクチャも登場している。これら周辺環境の技術進展も、wBMSの普及を左右しそうである。
バッテリーマネジメントシステムの主な役割と取得データ
バッテリーマネジメントシステム(BMS)は主として、セルの保護、監視、最適化という役割を果たしている。これらはバッテリーの安全性向上や寿命延長、航続距離延長に繋がる。副次的効果として、中央制御化やモジュール化、電力分配最適化などの役割も果たす。
BMSとしては一般的に、セル単体の電圧、総電圧、セル単体の温度、全体平均温度、冷却温度、電流入出力などのデータを取得できる。
取得データからの演算によって、最大電圧、最小電圧、充電状態(SoC:State of Charge)、劣化状態(SoH:State of Health)、出力状態(SoP:State of Power)、内部抵抗、サイクル数、貯蔵電荷、電力配分を推定できる。これらの取得/推定データによって、セルの異常(温度過昇/温度不足/電圧過昇/電圧不足/電流過昇等)を早期検知し、セル間のSoC差異を補正(セルバランシング)し、電池容量を決定し、電池寿命を示すことなどが可能になる。